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血統鑑定士の災難【本編】
17 サヴォイ公爵の決断①
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「こうしちゃいられないわ!」
「お待ちなさい、アンジェリカ。何処へ行こうというのかしら?」
今回の事に気付いたリードがハロルドへ送る手紙の内容なんていうものは決まっている!と今度こそソファから力強く立ち上がり一歩踏み出したところで、静かに部屋へと入ってきた母から待ったの声が掛かる。
「お母様・・・」
「母上。に、義姉上」
「フロル、どうしてここへ・・・?」
「今朝お父様が仰った通り、ハロルドはこのサヴォイ公爵家とは何の関係もなくなった人です。貴方はサヴォイ公爵家の当主であるお父様の決定を無視するのですか?」
お座りなさい。と静かな視線と一振りする手でアンジェリカをソファと再び押し込め、自分もゆったりと空いたソファへ座ったのはサヴォイ公爵家を取り仕切る女主人、チェレーア・サヴォイであった。
チェレーアの後ろから身重な身体を抱えて入ってきた女性にカーティスは慌てて走り寄り部屋内へエスコートしつつ二人掛けのソファへと座らせるとその隣に座り直した。
その間、先に座っていたライナスはそそくさとカーティスに蹴られる前にと無言でソファを空けて一人掛けのソファへと座り直している。
待機していたメイドは全員が着席し終えると、すかさず紅茶を人数分サーブし「失礼いたします」と会釈をした後、何事も無かったかのように部屋から下がった。
しっかりと扉が閉まり、部屋には家族だけが残ったことを確認すると、チェレーアは淹れたての紅茶を一口飲み目の前の4人に視線を戻した。
カーティスは妻であるフロリーナから手を離すことなく、フロリーナと共にチェレーアが紡ぐであろう言葉を静かに待っている。
ライナスはリードのハロルドへの重苦しい感情を知っている為に、このままではハロルドは何もわからないまま囲われてしまうのではないかと気が気ではない様で、視線はチェレーアに確りと向けてはいるが、両手を握りしめたり摩ったりと落ち着きが無い。
アンジェリカに至ってはギリギリと奥歯を噛みしめ、どうする事も出来ない自分が悔しいのか涙目でチェレーアを睨んでいた。
アンジェリカの今にも人を射殺しそうな目元を見て、チェレーアは愛する夫の昨夜を思い出した。
本当によく似ているわ・・・と。
「先程も言った通り、ハロルドはもうサヴォイとは関係ありませんが、あの子の性質はお父様だってきちんと理解した上での判断です。・・・間接的ではありますが、リードさんへ預けることにしました」
「「なっ!」」
「アンジェリカ、落ち着いて聞きなさい。ライナスもよ。・・・お父様だって決して血も涙もない方ではないの。今後のハロルドを思えばこその決断です」
「・・・リードが何か言ってきたのですか?」
ライナスのぼそりと呟かれたかのような小さな声の質問に、チェレーアはくすりと笑った。
「貴方はリードさんから相談を受けていたんだったわね?」
と、ライナスの質問に首肯して答え「できれば、その相談されたことを直ぐに教えて欲しかったわ」とチェレーアは続けた。
「に・い・さ・ま?」
ライナスはアンジェリカの方から刺さるような視線を感じていたが、それに応える勇気はなかった。
ライナスはアンジェリカの様にハロルドを真綿で包むような囲い込みをしたいわけではなく、ただハロルドが幸せであれば相手は誰でも良いのだった。
オリヴィエ嬢でも、マリアンナでも、リードであっても・・・
だからこそ、本人から頼まれたこともあり、ハロルドの望まない方向へ進まない様にリードを抑えていた。
しかし、ここにきてリードの自制心という箍が外れたのだろう。
婚約破棄、もとい、婚約を白紙に戻したことを何処から聞きつけたのかリードは直ぐにサヴォイ公爵家の当主であるリュシアンへと手紙を送ってきたのだとチェレーアは言った。
その手紙にはこれまでとこれからのリードの想いがこれでもかと綴られていたという。
リュシアンはその手紙を読んだ後、力なく天井を仰ぎ椅子の背もたれへ体を預けた。
その様子に何か勘づくと、チェレーアはリュシアンの手から奪い取るように手紙を取ると読み進めた。
読み進め「あらあら」とリードの熱い想いに触れて、ふと、こう思った。
ハロルドはリードの魂の伴侶ではないか?
――魂の伴侶とは、生まれ変わるたびにめぐり会う程に深い縁を持つ運命で結びついた相手の事を云う。そして神が定めた夫婦とも云われていた。遠く離れた獣人の国では『運命の番』とも云われ、出会うことは滅多になく、出会ってもハロルドのように気付かない場合もあれば、リードの様に狂おしく恋焦がれる場合もあるのだという。
それを踏まえて、手紙から溢れ出るハロルドへの狂愛に近いリードの想いに、夫婦は思った。
幽閉なんぞして、リードの手に届かない場所へハロルドを隠した瞬間、ハロルドの不幸が始まるだろうと。
「お待ちなさい、アンジェリカ。何処へ行こうというのかしら?」
今回の事に気付いたリードがハロルドへ送る手紙の内容なんていうものは決まっている!と今度こそソファから力強く立ち上がり一歩踏み出したところで、静かに部屋へと入ってきた母から待ったの声が掛かる。
「お母様・・・」
「母上。に、義姉上」
「フロル、どうしてここへ・・・?」
「今朝お父様が仰った通り、ハロルドはこのサヴォイ公爵家とは何の関係もなくなった人です。貴方はサヴォイ公爵家の当主であるお父様の決定を無視するのですか?」
お座りなさい。と静かな視線と一振りする手でアンジェリカをソファと再び押し込め、自分もゆったりと空いたソファへ座ったのはサヴォイ公爵家を取り仕切る女主人、チェレーア・サヴォイであった。
チェレーアの後ろから身重な身体を抱えて入ってきた女性にカーティスは慌てて走り寄り部屋内へエスコートしつつ二人掛けのソファへと座らせるとその隣に座り直した。
その間、先に座っていたライナスはそそくさとカーティスに蹴られる前にと無言でソファを空けて一人掛けのソファへと座り直している。
待機していたメイドは全員が着席し終えると、すかさず紅茶を人数分サーブし「失礼いたします」と会釈をした後、何事も無かったかのように部屋から下がった。
しっかりと扉が閉まり、部屋には家族だけが残ったことを確認すると、チェレーアは淹れたての紅茶を一口飲み目の前の4人に視線を戻した。
カーティスは妻であるフロリーナから手を離すことなく、フロリーナと共にチェレーアが紡ぐであろう言葉を静かに待っている。
ライナスはリードのハロルドへの重苦しい感情を知っている為に、このままではハロルドは何もわからないまま囲われてしまうのではないかと気が気ではない様で、視線はチェレーアに確りと向けてはいるが、両手を握りしめたり摩ったりと落ち着きが無い。
アンジェリカに至ってはギリギリと奥歯を噛みしめ、どうする事も出来ない自分が悔しいのか涙目でチェレーアを睨んでいた。
アンジェリカの今にも人を射殺しそうな目元を見て、チェレーアは愛する夫の昨夜を思い出した。
本当によく似ているわ・・・と。
「先程も言った通り、ハロルドはもうサヴォイとは関係ありませんが、あの子の性質はお父様だってきちんと理解した上での判断です。・・・間接的ではありますが、リードさんへ預けることにしました」
「「なっ!」」
「アンジェリカ、落ち着いて聞きなさい。ライナスもよ。・・・お父様だって決して血も涙もない方ではないの。今後のハロルドを思えばこその決断です」
「・・・リードが何か言ってきたのですか?」
ライナスのぼそりと呟かれたかのような小さな声の質問に、チェレーアはくすりと笑った。
「貴方はリードさんから相談を受けていたんだったわね?」
と、ライナスの質問に首肯して答え「できれば、その相談されたことを直ぐに教えて欲しかったわ」とチェレーアは続けた。
「に・い・さ・ま?」
ライナスはアンジェリカの方から刺さるような視線を感じていたが、それに応える勇気はなかった。
ライナスはアンジェリカの様にハロルドを真綿で包むような囲い込みをしたいわけではなく、ただハロルドが幸せであれば相手は誰でも良いのだった。
オリヴィエ嬢でも、マリアンナでも、リードであっても・・・
だからこそ、本人から頼まれたこともあり、ハロルドの望まない方向へ進まない様にリードを抑えていた。
しかし、ここにきてリードの自制心という箍が外れたのだろう。
婚約破棄、もとい、婚約を白紙に戻したことを何処から聞きつけたのかリードは直ぐにサヴォイ公爵家の当主であるリュシアンへと手紙を送ってきたのだとチェレーアは言った。
その手紙にはこれまでとこれからのリードの想いがこれでもかと綴られていたという。
リュシアンはその手紙を読んだ後、力なく天井を仰ぎ椅子の背もたれへ体を預けた。
その様子に何か勘づくと、チェレーアはリュシアンの手から奪い取るように手紙を取ると読み進めた。
読み進め「あらあら」とリードの熱い想いに触れて、ふと、こう思った。
ハロルドはリードの魂の伴侶ではないか?
――魂の伴侶とは、生まれ変わるたびにめぐり会う程に深い縁を持つ運命で結びついた相手の事を云う。そして神が定めた夫婦とも云われていた。遠く離れた獣人の国では『運命の番』とも云われ、出会うことは滅多になく、出会ってもハロルドのように気付かない場合もあれば、リードの様に狂おしく恋焦がれる場合もあるのだという。
それを踏まえて、手紙から溢れ出るハロルドへの狂愛に近いリードの想いに、夫婦は思った。
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