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血統鑑定士の災難【本編】
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出たならば、顔を俯けることはしてはいけない。真っ直ぐ対象を見て、些細な情報でも見逃してはいけない。
「ハロルド殿はアカデミーで同じクラスという事もあり、簡単な自己紹介は必要ありませんよね?」
「・・・あぁ、君の事は知っている。アカデミー卒業後直ぐに王宮鑑定士として勤めることも。・・・でも何故君が?」
「鑑定というギフトは細分化しているのは皆も知っている事だろう。物品、動物、植物とその一分野で一つのギフトが授けられる。人物鑑定のギフトは特に希少で、現在の王宮鑑定士も士長ただ一人だ。それも対象者のみしか視ることが出来ない」
二年前にハロルド殿が別人ではないか?という疑惑を払拭するために鑑定をしたのは王宮鑑定士の士長その人だ。
かなりのご高齢であり、今日は持病のギックリ腰が出たという事で欠席している。
昨日の様子を知っている鑑定室勤務者は絶対嘘だと思っているのは余談だ。
「リリカント司書官殿のギフトは人物鑑定が可能なもので、更に詳細を視ることが出来るのだ」
「詳細、ですか?」
訝し気に私を見てくるハロルド殿に王太子殿下はひとつ頷いて言葉を続けた。
「その視た対象の血の繋がる両親、祖父母、先祖にまで至るという。もちろん、腹の中に宿る赤子も視ることが可能だ。我々はこれを血統鑑定と名称をつけた。司書官なのは王宮の図書室勤務も兼ねているからだが・・・。これは皆も知っている通り、鑑定室勤務者は士長以外どこかと兼務しているのが殆どだからな」
基本暇なので・・・と苦笑しながら私は頬を掻く。
鑑定のギフトを活かしつつ他の仕事を兼務している方が白い目で見られないですむから。
全くと言っていいほどの仕事量の差に、同じ給金は本当に肩身が狭い思いをするのだ。
と鑑定室の諸先輩方が言っていた。
「勝手には視えませんから、周りの方も安心してください。私は王家と教会の立会いの下にこのギフトの行使に誓約を掛けていますので、それを破ることはしません。破れば、ギフト、失うので」
何人か視られたくないのか、痛くもない腹を探られたくないのかぎこちなく動き数歩下がっていく人達のためにフォローを入れる。
当たり前でしょう。
人物鑑定なんてプライバシーの侵害の何物でもないじゃないですか。と私か伝えると歩が止まる。・・・本当に疚しいことでもあるんかな。
あーあ、侍従が目を光らせてしっかりチェック入れてるよ。知ーらない。って、後で私の仕事になるんじゃ・・・?
「私の誓約は依頼者との契約を結んで、はじめて人物の鑑定が行使できます」
私の言葉に合わせるように王太子殿下の従者が一枚の紙と一本のペン、そして特殊な色をしたインク瓶を取り出す。
準備が良いですね?何であるんですか?とは聞かない。聞いてはいけない。
「この契約書にはギフト行使に対する誓約と、鑑定依頼者への注意事項が書かれています」
読み上げますね。と私は契約書に目を落とすことなく諳んじた。
「いち、鑑定対象の本人、または戸籍上の縁者、並びに国王陛下、王位継承権を持つ王族、教皇、枢機卿から依頼があった時のみ血統鑑定を行う。
いち、鑑定結果には嘘偽りなく事実のみを述べる事。
いち、鑑定結果がどのような結果であっても王宮、並びに教会へ直ちに報告をする事。
鑑定行使者は上記の事を厳守し、鑑定・報告をする事。
鑑定依頼者は上記の事に異論がなければ、依頼する事。
以上のことに承諾されましたら、依頼者名を署名願います」
「この場合、ハロルドはまだ戸籍上の父ではないので依頼できないからな。先程倒れて医務室へと運ばれてしまったデジール男爵家の二男が最良だったのだが・・・。仕方がない、私が依頼するとしよう」
やれやれ困ったね。と言わんばかりの態度でペンを手にしてますが、最良なのは確実に母であるマリアンナ嬢ですよね?なんか、マリアンナ嬢本人はさっきからちょっと落ち着かない様子で目が泳いでるけど・・・
ていうか、マリアンナ嬢のお兄ちゃんをこんなとこに引きずり込んだら胃に大ダメージ受けて確実に吐血すると思うのでやめてあげてください。
王太子殿下がハロルド殿に再確認もしないで流れるように契約書にサインをしていく。
依頼者が王位継承権第一位の王太子殿下ならば鑑定行使には問題はない。
特殊なインクで書かれたサインがキラキラと輝く。と同時に私の手首にジャストフィットしている腕輪がそれに呼応するかのようにぼんわりと光を放ち始める。
「契約は成されました。鑑定を行使します。対象者は私の前へ」
ただ私が移動してマリアンナ嬢を視ればいいんだけど、サインが終わった王太子殿下に後ろから肩を掴まれているので移動が不可能になっている。意味わからん。
なので、マリアンナ嬢に動いて貰うことにしよう。
「ハロルド殿はアカデミーで同じクラスという事もあり、簡単な自己紹介は必要ありませんよね?」
「・・・あぁ、君の事は知っている。アカデミー卒業後直ぐに王宮鑑定士として勤めることも。・・・でも何故君が?」
「鑑定というギフトは細分化しているのは皆も知っている事だろう。物品、動物、植物とその一分野で一つのギフトが授けられる。人物鑑定のギフトは特に希少で、現在の王宮鑑定士も士長ただ一人だ。それも対象者のみしか視ることが出来ない」
二年前にハロルド殿が別人ではないか?という疑惑を払拭するために鑑定をしたのは王宮鑑定士の士長その人だ。
かなりのご高齢であり、今日は持病のギックリ腰が出たという事で欠席している。
昨日の様子を知っている鑑定室勤務者は絶対嘘だと思っているのは余談だ。
「リリカント司書官殿のギフトは人物鑑定が可能なもので、更に詳細を視ることが出来るのだ」
「詳細、ですか?」
訝し気に私を見てくるハロルド殿に王太子殿下はひとつ頷いて言葉を続けた。
「その視た対象の血の繋がる両親、祖父母、先祖にまで至るという。もちろん、腹の中に宿る赤子も視ることが可能だ。我々はこれを血統鑑定と名称をつけた。司書官なのは王宮の図書室勤務も兼ねているからだが・・・。これは皆も知っている通り、鑑定室勤務者は士長以外どこかと兼務しているのが殆どだからな」
基本暇なので・・・と苦笑しながら私は頬を掻く。
鑑定のギフトを活かしつつ他の仕事を兼務している方が白い目で見られないですむから。
全くと言っていいほどの仕事量の差に、同じ給金は本当に肩身が狭い思いをするのだ。
と鑑定室の諸先輩方が言っていた。
「勝手には視えませんから、周りの方も安心してください。私は王家と教会の立会いの下にこのギフトの行使に誓約を掛けていますので、それを破ることはしません。破れば、ギフト、失うので」
何人か視られたくないのか、痛くもない腹を探られたくないのかぎこちなく動き数歩下がっていく人達のためにフォローを入れる。
当たり前でしょう。
人物鑑定なんてプライバシーの侵害の何物でもないじゃないですか。と私か伝えると歩が止まる。・・・本当に疚しいことでもあるんかな。
あーあ、侍従が目を光らせてしっかりチェック入れてるよ。知ーらない。って、後で私の仕事になるんじゃ・・・?
「私の誓約は依頼者との契約を結んで、はじめて人物の鑑定が行使できます」
私の言葉に合わせるように王太子殿下の従者が一枚の紙と一本のペン、そして特殊な色をしたインク瓶を取り出す。
準備が良いですね?何であるんですか?とは聞かない。聞いてはいけない。
「この契約書にはギフト行使に対する誓約と、鑑定依頼者への注意事項が書かれています」
読み上げますね。と私は契約書に目を落とすことなく諳んじた。
「いち、鑑定対象の本人、または戸籍上の縁者、並びに国王陛下、王位継承権を持つ王族、教皇、枢機卿から依頼があった時のみ血統鑑定を行う。
いち、鑑定結果には嘘偽りなく事実のみを述べる事。
いち、鑑定結果がどのような結果であっても王宮、並びに教会へ直ちに報告をする事。
鑑定行使者は上記の事を厳守し、鑑定・報告をする事。
鑑定依頼者は上記の事に異論がなければ、依頼する事。
以上のことに承諾されましたら、依頼者名を署名願います」
「この場合、ハロルドはまだ戸籍上の父ではないので依頼できないからな。先程倒れて医務室へと運ばれてしまったデジール男爵家の二男が最良だったのだが・・・。仕方がない、私が依頼するとしよう」
やれやれ困ったね。と言わんばかりの態度でペンを手にしてますが、最良なのは確実に母であるマリアンナ嬢ですよね?なんか、マリアンナ嬢本人はさっきからちょっと落ち着かない様子で目が泳いでるけど・・・
ていうか、マリアンナ嬢のお兄ちゃんをこんなとこに引きずり込んだら胃に大ダメージ受けて確実に吐血すると思うのでやめてあげてください。
王太子殿下がハロルド殿に再確認もしないで流れるように契約書にサインをしていく。
依頼者が王位継承権第一位の王太子殿下ならば鑑定行使には問題はない。
特殊なインクで書かれたサインがキラキラと輝く。と同時に私の手首にジャストフィットしている腕輪がそれに呼応するかのようにぼんわりと光を放ち始める。
「契約は成されました。鑑定を行使します。対象者は私の前へ」
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