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第四章 想いを込めた星空ブレスレット
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「――バイトを辞めることになった」
近くの公園のベンチに隣り合って座ると、瞬君は口を開いた。
空は薄らと暗くなり、星が輝き始めていた。
「どうして⁉」
「……親父にバイトしてることがバレた。で、優一さんにも年ごまかしてたこと知られちまった」
「あ……」
ついにこのときが来てしまった。
私は俯くと、手のひらをギュッと握りしめた。
「悪かったな、美琴にもずっと嘘つかせてて。お前は何を聞かれても知らなかったって言ってくれたらいいから」
「そんな……!」
瞬君はベンチに両手をつくと、空を見上げて口を開いた。
「……親父にすっげえ怒られた。お袋のためだって言うなら今本当に自分がしなきゃいけないことをしてからにしろって。その通りだよな。俺、焦ってたのかもしれない。お袋が出て行って親父と二人きりになって、早く大人にならなきゃ。手に職をつけて俺がお袋を守らなきゃってずっと思ってた。でも、その考えがきっと子どもなんだよな。馬鹿だよな、俺って。あげく、優一さんにも迷惑かけてさ。でも、バレてよかったのかも。優一さんにもお前にもずっと申し訳なかったから。ホントごめんな」
私は必死に首を振る。
瞬君が考えてそれが一番いいと思ってやったことを否定したくなかった。
なんと言っていいのかわからず、気づけば頬を涙が伝う。
そんな私の頭を、瞬君は優しく撫でた。
「なんでお前が泣くんだよ」
「だって……」
「あーあ。お前、わかってるか? 俺がバイトを辞めるってことは、明日からお前のことを家まで送れないんだぞ? 変なやつが来ても守ってやれないんだからな」
「わかっ……て、る」
「ったく。……手、出せ」
「え?」
「手だって!」
瞬君は私の手を掴むと、手のひらに何かを載せた。
これは……。
瞬君が私の手のひらに載せたのは、いつか見せたデザイン画に描いたクラウンのブレスレットだった。
「どうして……」
「今の俺じゃあ、これが精一杯だけど、いつか必ず作り直すから。それまでは俺の代わりだと思って持ってろ」
少しいびつなクラウン。だけど、だからこそ、そこに込められた瞬君の想いに涙が止まらなくなる。
「絶対、大事にする」
手のひらのブレスレットをギュッと握りしめる私を、瞬君は優しく見つめていた。
「……そういえば」
「え?」
「お前のあれ、誰にやるんだ?」
「あれって?」
「あれだよ。俺に作らせた星のブレスレット。べ、別に俺には関係ないけど、作ったからには行方が気になって」
「あ、あれは」
私は慌てて鞄の中からラッピングしたブレスレットを取り出すと、瞬君に差し出した。
「え?」
「瞬君にあげたくて作ってもらったの! 星には『夢』とか『希望』っていう意味があるんだって。瞬君の夢が叶いますようにっていう願いを込めてデザインしたの。……その、瞬君に作ってもらったのをあげるのってなんか変かなって思ったけど、でもどうしても瞬君に渡したかったの」
「俺、に? マジで? なんだ、俺はてっきり」
「え?」
「いや、なんでもない。……ありがとな」
瞬君は私の手からブレスレットを受け取ると、ラッピングを開けてそれを腕につけた。
かかげた腕につけられたブレスレットは、空に瞬く星達と同じぐらいキラキラと輝いていた。
「きっと瞬君の未来も、そのブレスレットみたいに輝いているから。だからっ」
それ以上は涙が溢れてきて上手く喋ることができなかった。でも、そんな私の頬を流れる涙を瞬君は指先で拭うと、優しく微笑んだ。
「ありがとな。俺、絶対に頑張るから。高校生になったら必ずまた戻ってくるから。それまで待ってて」
「うん、絶対だよ。私、待ってるから」
「ああ、約束。このブレスレットにかけて誓うよ」
月明かりが反射して瞬君の腕につけたブレスレットのチャームが光る。
そうして私たちは――満天の星空の下で、さよならをした。
必ずまた会えると、そう信じて。
近くの公園のベンチに隣り合って座ると、瞬君は口を開いた。
空は薄らと暗くなり、星が輝き始めていた。
「どうして⁉」
「……親父にバイトしてることがバレた。で、優一さんにも年ごまかしてたこと知られちまった」
「あ……」
ついにこのときが来てしまった。
私は俯くと、手のひらをギュッと握りしめた。
「悪かったな、美琴にもずっと嘘つかせてて。お前は何を聞かれても知らなかったって言ってくれたらいいから」
「そんな……!」
瞬君はベンチに両手をつくと、空を見上げて口を開いた。
「……親父にすっげえ怒られた。お袋のためだって言うなら今本当に自分がしなきゃいけないことをしてからにしろって。その通りだよな。俺、焦ってたのかもしれない。お袋が出て行って親父と二人きりになって、早く大人にならなきゃ。手に職をつけて俺がお袋を守らなきゃってずっと思ってた。でも、その考えがきっと子どもなんだよな。馬鹿だよな、俺って。あげく、優一さんにも迷惑かけてさ。でも、バレてよかったのかも。優一さんにもお前にもずっと申し訳なかったから。ホントごめんな」
私は必死に首を振る。
瞬君が考えてそれが一番いいと思ってやったことを否定したくなかった。
なんと言っていいのかわからず、気づけば頬を涙が伝う。
そんな私の頭を、瞬君は優しく撫でた。
「なんでお前が泣くんだよ」
「だって……」
「あーあ。お前、わかってるか? 俺がバイトを辞めるってことは、明日からお前のことを家まで送れないんだぞ? 変なやつが来ても守ってやれないんだからな」
「わかっ……て、る」
「ったく。……手、出せ」
「え?」
「手だって!」
瞬君は私の手を掴むと、手のひらに何かを載せた。
これは……。
瞬君が私の手のひらに載せたのは、いつか見せたデザイン画に描いたクラウンのブレスレットだった。
「どうして……」
「今の俺じゃあ、これが精一杯だけど、いつか必ず作り直すから。それまでは俺の代わりだと思って持ってろ」
少しいびつなクラウン。だけど、だからこそ、そこに込められた瞬君の想いに涙が止まらなくなる。
「絶対、大事にする」
手のひらのブレスレットをギュッと握りしめる私を、瞬君は優しく見つめていた。
「……そういえば」
「え?」
「お前のあれ、誰にやるんだ?」
「あれって?」
「あれだよ。俺に作らせた星のブレスレット。べ、別に俺には関係ないけど、作ったからには行方が気になって」
「あ、あれは」
私は慌てて鞄の中からラッピングしたブレスレットを取り出すと、瞬君に差し出した。
「え?」
「瞬君にあげたくて作ってもらったの! 星には『夢』とか『希望』っていう意味があるんだって。瞬君の夢が叶いますようにっていう願いを込めてデザインしたの。……その、瞬君に作ってもらったのをあげるのってなんか変かなって思ったけど、でもどうしても瞬君に渡したかったの」
「俺、に? マジで? なんだ、俺はてっきり」
「え?」
「いや、なんでもない。……ありがとな」
瞬君は私の手からブレスレットを受け取ると、ラッピングを開けてそれを腕につけた。
かかげた腕につけられたブレスレットは、空に瞬く星達と同じぐらいキラキラと輝いていた。
「きっと瞬君の未来も、そのブレスレットみたいに輝いているから。だからっ」
それ以上は涙が溢れてきて上手く喋ることができなかった。でも、そんな私の頬を流れる涙を瞬君は指先で拭うと、優しく微笑んだ。
「ありがとな。俺、絶対に頑張るから。高校生になったら必ずまた戻ってくるから。それまで待ってて」
「うん、絶対だよ。私、待ってるから」
「ああ、約束。このブレスレットにかけて誓うよ」
月明かりが反射して瞬君の腕につけたブレスレットのチャームが光る。
そうして私たちは――満天の星空の下で、さよならをした。
必ずまた会えると、そう信じて。
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