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第一章 甘い卵焼きと秘密のデザインノート
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翌日、私は重い気持ちを引きずりながら学校へと向かった。
教室に入ると、私に気づいたクラスメイトが顔を上げた。
「美琴ちゃん、おはよう。こっち、こっち」
「おはよう」
肩に届きそうな髪をくるんと巻いて、スカートを短く穿いた香川さんが、私においでと手招きをした。
自分の席に鞄を置いてそちらに向かうと、香川さんと同じグループの吉田さん、大島さんの姿があった。
「ねえねえ、昨日のドラマ見たぁ?」
「え、あ、うん。見たよ」
「さっすが美琴ちゃん! もうさ、私ラストのヒロインを追いかけて横断歩道で抱き寄せたところでドキドキしちゃってぇ」
キャッキャと話す香川さんに愛想笑いを浮かべながら、他の子たちと話すのを聞く。
香川さんたちの話はドラマと雑誌とそれから誰がカッコいいとかそんなことばかり。
正直言って全然興味ないし、どうでもいい。それよりも、そのドラマで使ってたアクセサリーがどこのかとか、アイドルがつけてるブレスレットの形状が変わってたとかそういう話がしたい。
でも、きっと香川さんたちはそんなことには興味がなくて。
それを言っちゃうとこのクラスでひとりぼっちになっちゃうのがわかってるから言えなかった。
去年まではこうじゃなかったのに、そう思うとため息が出る。
中学入学と同時に、菜穂ちゃんが引っ越して県外の中学校に進学することになった。私は本当にショックで、寂しくて。
菜穂ちゃんがいたらきっと今頃、楽しくて仕方がない中学校生活を送れてたはずなのにって、そう思っちゃう。
でもそんなことを考えているなんてバレたら、きっと仲間はずれにされちゃうから、私は愛想笑いを浮かべたまま香川さんたちの話に頷いた。
学校が終わると、私は鞄を持ったままおじさんのお店へと向かった。
いつものようにドアを開けようとして、私は店内に誰かがいることに気づいた。
「お客さん、かな」
だったら、バンってドアを開けたらまずいよね。
迷惑にならないように音を立てずに中に入る。すると、中にいた男の子と目が合った。
薄茶色のさらさらと流れる髪、切れ長の目、そして何より学ランではなくブレザーを着ている姿に目を奪われた。
カッコいい……。
この辺の公立中は全て学ランのはずだったよね。と、いうことは高校生、かな。
「あの……」
「何、お前? こっそり入ってくるなんて万引きかなんか?」
「え?」
強い口調で言われ、思わず何も言えなくなってしまう。
今、万引きって言った……?
なんでそんなことこの人に言われなきゃいけないの!
「失礼なこと言わないでください。あなたこそ誰なんですか?」
「俺? 俺は、この店の店員だけど」
「嘘ばっかり! このお店に店員さんなんていません。あなたこそ不審者なんじゃあ?」
そういえば、最近よく編出者についてのメールが来るっていってた。それってこの人のことなのかもしれない。
「けっ、警察呼びますよ!」
「お前こそ、警察呼ばれたら困るんじゃねえの?」
さっき一瞬でもカッコいいと思ったのを後悔しそう! それぐらい、目の前のブレザー男は態度が大きく口が悪かった。
切れ長で素敵だと思った目も、ただただ目つきが悪いだけだし。
にらみ合いながら、ふとおじさんの姿が見えないことに気づいた。
もしかして、この人に何かされたんじゃあ。
「お、おじさんに何かしたんですか?」
「は?」
「おじさん! いないの? おじさん!」
「お、おい。お前まさか」
「んー? 美琴、帰ったのか?」
ガタンと音がしたかと思うと、ドアが開いて奥の工房からおじさんが姿を現した。
「おじさん! 無事だったの?」
「どうしたんだ?」
「だって不審者が!」
「不審者? ああ、彼か」
ニッと笑うと、おじさんはブレザー男を手招きした。
「彼は、有村瞬君。高校一年生。今日からうちでバイトをすることになったんだ」
「バイト……?」
だからさっき店員だって言ったんだ。
「瞬君、こっちは俺の姪っ子。上原美琴。中学一年生だ」
「姪っ子さん、だったんですか」
まじまじと私を見つめたあと、その人は言った。
「似てないですね」
「そうかな? まあここによく来るから仲良くしてやってよ。美琴も、瞬君と仲良くするんだよ」
「わかりました」
返事をするものの、顔には仲良くする気はありませんって書いてるみたいだった。
その態度にイラッとしながらも、私はしぶしぶ返事をした。
「はーい」
「それじゃあ、瞬君。お店について説明するから」
そう言ってレジの使い方や接客について説明をはじめたおじさんを尻目に、私は工房を抜けて二階へと上がった。
せっかくの大好きな空間が台無しになった感じがしてなんとなく、ううん。すごく嫌だ。
「はぁ」
とにかく宿題を終わらせようと、数学のワークを開く。
今日はたしか数学と漢字の書き取り、あとは英語のワークだけだ。
一時間ほどでどれも終わり、鞄の中からアクセサリーのデザイン画を描いた秘密のノートを取り出した。
いつもなら中を見ているだけでワクワクするのに、どうしてか今日は気が乗らない。
結局、ノートを開けたまま私はボーッと時間を過ごすことしかできなかった。
教室に入ると、私に気づいたクラスメイトが顔を上げた。
「美琴ちゃん、おはよう。こっち、こっち」
「おはよう」
肩に届きそうな髪をくるんと巻いて、スカートを短く穿いた香川さんが、私においでと手招きをした。
自分の席に鞄を置いてそちらに向かうと、香川さんと同じグループの吉田さん、大島さんの姿があった。
「ねえねえ、昨日のドラマ見たぁ?」
「え、あ、うん。見たよ」
「さっすが美琴ちゃん! もうさ、私ラストのヒロインを追いかけて横断歩道で抱き寄せたところでドキドキしちゃってぇ」
キャッキャと話す香川さんに愛想笑いを浮かべながら、他の子たちと話すのを聞く。
香川さんたちの話はドラマと雑誌とそれから誰がカッコいいとかそんなことばかり。
正直言って全然興味ないし、どうでもいい。それよりも、そのドラマで使ってたアクセサリーがどこのかとか、アイドルがつけてるブレスレットの形状が変わってたとかそういう話がしたい。
でも、きっと香川さんたちはそんなことには興味がなくて。
それを言っちゃうとこのクラスでひとりぼっちになっちゃうのがわかってるから言えなかった。
去年まではこうじゃなかったのに、そう思うとため息が出る。
中学入学と同時に、菜穂ちゃんが引っ越して県外の中学校に進学することになった。私は本当にショックで、寂しくて。
菜穂ちゃんがいたらきっと今頃、楽しくて仕方がない中学校生活を送れてたはずなのにって、そう思っちゃう。
でもそんなことを考えているなんてバレたら、きっと仲間はずれにされちゃうから、私は愛想笑いを浮かべたまま香川さんたちの話に頷いた。
学校が終わると、私は鞄を持ったままおじさんのお店へと向かった。
いつものようにドアを開けようとして、私は店内に誰かがいることに気づいた。
「お客さん、かな」
だったら、バンってドアを開けたらまずいよね。
迷惑にならないように音を立てずに中に入る。すると、中にいた男の子と目が合った。
薄茶色のさらさらと流れる髪、切れ長の目、そして何より学ランではなくブレザーを着ている姿に目を奪われた。
カッコいい……。
この辺の公立中は全て学ランのはずだったよね。と、いうことは高校生、かな。
「あの……」
「何、お前? こっそり入ってくるなんて万引きかなんか?」
「え?」
強い口調で言われ、思わず何も言えなくなってしまう。
今、万引きって言った……?
なんでそんなことこの人に言われなきゃいけないの!
「失礼なこと言わないでください。あなたこそ誰なんですか?」
「俺? 俺は、この店の店員だけど」
「嘘ばっかり! このお店に店員さんなんていません。あなたこそ不審者なんじゃあ?」
そういえば、最近よく編出者についてのメールが来るっていってた。それってこの人のことなのかもしれない。
「けっ、警察呼びますよ!」
「お前こそ、警察呼ばれたら困るんじゃねえの?」
さっき一瞬でもカッコいいと思ったのを後悔しそう! それぐらい、目の前のブレザー男は態度が大きく口が悪かった。
切れ長で素敵だと思った目も、ただただ目つきが悪いだけだし。
にらみ合いながら、ふとおじさんの姿が見えないことに気づいた。
もしかして、この人に何かされたんじゃあ。
「お、おじさんに何かしたんですか?」
「は?」
「おじさん! いないの? おじさん!」
「お、おい。お前まさか」
「んー? 美琴、帰ったのか?」
ガタンと音がしたかと思うと、ドアが開いて奥の工房からおじさんが姿を現した。
「おじさん! 無事だったの?」
「どうしたんだ?」
「だって不審者が!」
「不審者? ああ、彼か」
ニッと笑うと、おじさんはブレザー男を手招きした。
「彼は、有村瞬君。高校一年生。今日からうちでバイトをすることになったんだ」
「バイト……?」
だからさっき店員だって言ったんだ。
「瞬君、こっちは俺の姪っ子。上原美琴。中学一年生だ」
「姪っ子さん、だったんですか」
まじまじと私を見つめたあと、その人は言った。
「似てないですね」
「そうかな? まあここによく来るから仲良くしてやってよ。美琴も、瞬君と仲良くするんだよ」
「わかりました」
返事をするものの、顔には仲良くする気はありませんって書いてるみたいだった。
その態度にイラッとしながらも、私はしぶしぶ返事をした。
「はーい」
「それじゃあ、瞬君。お店について説明するから」
そう言ってレジの使い方や接客について説明をはじめたおじさんを尻目に、私は工房を抜けて二階へと上がった。
せっかくの大好きな空間が台無しになった感じがしてなんとなく、ううん。すごく嫌だ。
「はぁ」
とにかく宿題を終わらせようと、数学のワークを開く。
今日はたしか数学と漢字の書き取り、あとは英語のワークだけだ。
一時間ほどでどれも終わり、鞄の中からアクセサリーのデザイン画を描いた秘密のノートを取り出した。
いつもなら中を見ているだけでワクワクするのに、どうしてか今日は気が乗らない。
結局、ノートを開けたまま私はボーッと時間を過ごすことしかできなかった。
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