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第四章
4-9
しおりを挟む顔を上げた香澄をテンテンがまっすぐに見つめていた。
「テンテン?」
「……まあな、お前は空回りするし周りを見ず一人突っ走ってしまうことも多々ある。お節介だし、それから」
「ねえ、へこませるために言ってるの?」
「だがそんなお前だからこそ皆、協力しようとしているのではないか?」
「え?」
その言葉の真意がわからず、香澄はテンテンを見つめ返した。ふっと風が吹き、テンテンの真っ白の髪がたなびき顔が隠れたその向こうで、一瞬テンテンが笑った気がした。
「全てはお前が繋いだ縁だ」
「縁……」
「そうだ。お前が誰かを助け、想い、動いた。人の為に動いたお前の為だからこそ、皆は今動いてくれているのであろう。お前がいなければ、今頃何も動き出さなかったはずだ」
そうなの、だろうか。そんなふうに思っていいのだろうか。テンテンの言葉を信じないわけではなかったけれど、それはあまりに香澄にとって都合のよすぎる言葉で。
「信じていないな。ならば、ほれ」
「え?」
テンテンはまっすぐに香澄の斜め後ろを指さした。つられて振り返るとそこにはキョロキョロと何かを探すような素振りをする青崎の姿があった。
「青崎君?」
「あ、香澄さん。やっと見つけました。メッセージ送ってたんですけど、見ませんでしたか?」
「あ、ごめん。気づいてなくて」
慌ててポケットからスマートフォンを取り出すと、そこには青崎から香澄の安否を気遣うメッセージが届いていた。
「ごめん、何か急用だった?」
「や、えっと。早瀬が香澄さんが出て行ったっきり帰ってこないって連絡してきて。それで、えっと、心配だったので……」
「わざわざ探しに来てくれたの? ありがとう」
突然いなくなって心配をかけてしまっただけでなく、青崎の作業の手まで止めさせてこんなところに来てもらうなんて、役に立たないどころか。
「迷惑、かけちゃったね」
「迷惑なんかじゃないですよ! それにほら、香澄さんがいないと始まらないじゃないですか」
「え?」
「田神さんから聞いてませんか? 今回、店を出さないから俺に香澄さんの方の手伝いに行ってやれって。弥生さんが亡くなって一人で祭りは手が回らないだろうからって。あと東山さんから、香澄さんのことだから自分だけ何もできないと自分のことを責めてるだろうからって。みんな香澄さんのこと気にしてましたよ」
驚いて声が出ない。田神や東山がまさか自分のことをそんなにも気にしてくれていたなんて思いもしなかった。
「だから言っただろう。お前が繋いだ『縁』だって」
テンテンの言葉に香澄は無言のまま頷いた。何か一言でも喋れば、涙が溢れてしまいそうだったから。
「え、香澄さん? 大丈夫ですか?」
けれど青崎だけは、口元を押さえた香澄に驚き慌てふためいている。大丈夫だと伝えたくて頷くけれど、青崎は困ったような表情を浮かべ、それから香澄の手を掴んだ。
「え?」
「大丈夫です。俺が、ついてます」
「青崎、くん?」
「香澄さんは一人じゃないです。だから」
真剣な表情に、一瞬どうすればいいのかわからなくなる。助けを求めるようにテンテンの方を見るけれど、興味がないと言わんばかりに顔を背けてしまった。
「あ、あの。青崎君」
「はい!」
「えっと、その、手……」
「手? ……って、わっ。す、すみません!」
慌てて香澄から手を離すと、青崎は恥ずかしそうに頬を掻く。そんな姿につい笑ってしまう。青崎も笑う香澄を見て、照れくさそうにはにかんだ。
香澄は青崎とともにほほえみ商店街へと戻る。疎外感に苛まれた行きとは違い
「あ、香澄ちゃん。ちょっとええか?」
「虹林さんとこの。雲井さんが探してはったで」
行き交うたくさんの人達が香澄を呼び止め声をかけてくれる。
全ての縁を香澄が一人繋いだなんて、そんなことないのはわかっている。それでも今こうやってたくさんの人の笑顔があるのは。
「あー! やっと香澄さん帰ってきよった!」
「香澄さん、おかえりなさい」
「どないしたんかと心配しとったんやで」
レインボウのドアを開けた香澄を早瀬や遠藤、雲井が出迎えた。
縁を繋いだかどうかなんてわからない。けれど、今こうやって立つここが香澄自身の居場所なのだと改めて感じる。誰かに与えられたものではない。香澄自身が作った、居場所なのだと。だからこそ余計に、あと少しでここが奪われてしまうかも知れない、ということが悔しくて辛い。
本当は少しだけずっと罪悪感があった。ほほえみ商店街の存続の危機を、秋祭りの成功を自分の目的のために利用しているようで。今までだってそう。誰かの願いを自分の私利私欲のための道具にしているようでずっと申し訳なさが拭えなかった。
「香澄さん?」
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