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第四章
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しおりを挟む早瀬の公開プロポーズから数日が経った。仲直りした二人は揃ってレインボウを訪れた。入り口近くの二人がけ席に向かい合って座った二人は、注文を聞きに来た香澄を見て席を立った。
「あのときは、ありがとうございました」
「私は何もしてないよ」
「そんなことないです。香澄さんに話し聞いてもらってなかったら、きっと今も自分だけ辛いんやって思って、鈴ちゃんがどんな想いしてるかも考えんと悲劇のヒロインみたくなってたと思う。もしかしたら本当に別れてたかもしれへん」
「私もずっとどうして太助君は私の気持ちをわかってくれないんだろうって、話もせずに太助君のことを酷いって思い続けたかもしれません。香澄さんのおかげです。本当にありがとうございました」
揃って頭を下げる二人に、香澄はもうこの二人は大丈夫だと安心する。きっとこれから離ればなれになった二年の間に大変なことも辛いこともあると思う。それでも二人なら乗り越えられる。そんな風に思える二人の姿が、香澄には眩しく見えた。
二人の注文したアイスティとホットコーヒーを運び、香澄はカウンターの中へと戻る。楽しそうに何かを話す二人の姿を見ながら微笑ましく思っていると、カウンター席の端に座っていた雲井が深いため息を吐いた。
「はぁ~~~」
「どうしたんですか?」
「ああ……。今日も暇でなぁ。ついにランチタイムもかみさんだけで回せるぐらいになってしもた」
「それ、は」
大変ですね、と言いかけて、祝日だというのに客の少ないレインボウの店内を見て、他店のことを何も言えない状況に頭が痛くなった。
以前であれば休日は満席とは言わずとも、まあまあの賑わいを見せていた。けれど、今店内にいるのは早瀬と遠藤、そして雲井の三人だけだ。平日に至っては商店街の人が来てくれるか青崎と早瀬が来るぐらいで他の客はゼロに等しい日すらある。
大阪にも京都にも近いということもあり、市内の人口は近年増加しているようだけれど、逆を返せば大阪にも京都にも気軽に遊びにも買い物にも行けるのだ。若い子ならなおさら、商店街よりそちらを選ぶだろう。
さらに駅付近にはショッピングセンターも百貨店もある、わざわざほほえみ商店街まで足を伸ばさずとも、買いたい物は買えてしまう。
それでも昔から商店街を利用している人は、今も商店街で買い物をし、帰りは当たり前のようにレインボウでコーヒーを飲んで帰ってくれる。けれども確実に客足は減っていた。
シャッターの店舗が増えたことを雲井は心配していたが、レインボウも他人事ではないかもしれない。今はまだ大丈夫だけれど、いつかは――。
でもそのいつかよりも前に、このままでは黒田にレインボウを取られてしまう。ただ取られなかったとしても、今みたいに雲井や弥生の友人、そして青崎たちに頼っているようでは、レインボウの終わりは近いだろう。レインボウだけじゃない。もしかしたら他のほほえみ商店街の店も……。
いったいどうすればいいのだろう。
「はぁ……」
雲井のため息に香澄のため息が重なった。顔を見合わせ、お互いに苦笑いを浮かべた後、思い出したかのように雲井は言った。
「それに最近な、この商店街にもシャッターが増えたなぁって思とってん」
「そういえば、そうですね」
昔に比べて、どころかこの数年の間だけでも片手じゃ足りないほどの店が閉店になった。今ある店も店主が高齢となっていることもあり、この代で閉店を決めている、という話も何軒か聞いた。
「どうしたもんかなぁ」
雲井は何かの用紙を握りしめたままもう一度ため息を吐いた。何を見ているのかと思わず覗き込むと、それは毎年夏にほほえみ商店街である『ほほえみ祭り』のチラシだった。
食べ物やヨーヨー釣りなどの屋台が出て子どもたちが来てくれるのだけれど、それも年々参加者が少なくなり、去年はついに五つしか屋台が出ないという寂しい事態になってしまっていた。
今年の祭りは豪雨の影響で中止になったと聞いていたけれど。
「それってほほえみ祭りですよね? どうして今頃?」
香澄の問いに雲井は用紙を見せることで答えた。
「『ほほえみ秋祭り』? 秋にするんですか?」
「せや。今年は夏にできひんかったからな。せっかくやったらってことになったんやけど、肝心の屋台がなぁ」
「今のところ申し込みは」
「……二」
去年よりも確実に減っている。どうやら雪斗の家であるベーカリー大迫と雲井の店だけしか屋台を出す予定はないようだ。香澄も弥生が生きていた頃は屋台を出していたけれど、一人で屋台を出して回せるかというと自信はない。
「香澄ちゃんは」
「うちは、ちょっと難しいかなって」
「せやんな。せやんなぁ……。どないしょうかな、ほんま」
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