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第二章
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しおりを挟むテンテンに言われた言葉の意味が理解できず、思わず聞き返してしまう。そんな香澄にテンテンは宙返りをすると人型に変化し賽銭箱の上に膝を組んで座った。膝の上に肘をつき手の平の上に顎を乗せると、見下ろすようにして香澄を見た。その視線の冷たさに思わずたじろいでしまう。
「何……」
「一願成就」
「え?」
「ここで叶えてやれる願いごとは一人につき一つだ。お前が猫探しを頼むというのであればそれもいい。だが、その場合お前の祖母に会いたいと言う願いは叶えることはできん」
そういえば、テンテンが雪斗に渡した栞にそんなことを書いていたことを思い出す。けれど、あれがここのルールだなんてしらなかった。ううん、そもそも。
「この願いは奈津さんの願いだから、私は関係ないじゃん! と、いうかそんなルール聞いてない!」
「今決めた。今ここに奈津という女はいない。いるのはお前だけだ。違うか?」
「そんなの屁理屈だよ!」
「知らんな」
そっぽを向き、毛繕いをするかのように尻尾の毛を指で梳くテンテンの姿を忌ま忌ましく思いながら睨みつける。そんな香澄を「ほら、どうする」と言わんばかりにテンテンは目を細めて見てくる。
悔しい。香澄が絶対に是と言えないのをわかっていてテンテンは言っている。そしてそこまでわかっているのに、それでもテンテンに縋るしかない自分が。
「……っ」
「もうこれ以上深く関わるのはやめておけ」
「どうしてそんなことが言えるの⁉」
淡々と言うテンテンに思わず感情的に声を荒らげてしまう。テンテンは知らないのだ。家族がいなくなったときの喪失感を。もう二度と会えないという苦しさを。
「もうテンテンには頼まない!」
「おい、こら」
香澄はテンテンに背を向けると境内を駆け抜けた。背後で、テンテンがため息を吐く音が聞こえた気がした。
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