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第二章

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 奈津はテンテンの鳴き声を了承と受け取ったようだった。けれど、香澄には「……期待するな」と言っているテンテンの声が聞こえた。

「それじゃあ、もし見かけたら連絡ちょうだいね」と言って奈津は猫神社をあとにする。二人だけになると香澄はテンテンに詰め寄った。

「さっきの、どういうこと?」
「何がだ」
「何がだ、じゃないよ。奈津さんの依頼は引き受けるなって言ったり、期待するなって言ったり。信仰を取り戻したいんでしょ? せっかくの依頼者だよ」

 迷子の猫を見つけるぐらいならたいしたことはないだろう、香澄はそう思っていた。けれど、テンテンは首を縦には振らない。

「もしかして猫探しなんて、って思ってる? でも、ハルは奈津さんの家族も同然なんだよ?」

 それでもテンテンは何も言わない。香澄はそんな煮え切らない態度にカッとなって立ち上がった。

「いいよ、じゃあもう私一人で探すよ。同じ猫のくせに! テンテンがそんなに薄情だったなんて知らなかった!」
「おいっ」

 まだ何か言っているのが聞こえたけれど、香澄はその声を無視して境内を走り抜け、石段を駆け下りた。まだ近くに奈津はいるだろうか。

「あ、奈津さん!」
「え?」

 横断歩道を渡ったところに奈津の姿があった。慌てて呼び止めるけれど、タイミング悪く信号は赤に変わってしまう。もどかしく思いながらも、奈津が待ってくれているのが見えて香澄は少し安心した。
 ようやく横断歩道の信号が青になり、香澄は奈津の元に走り寄った。

「奈津さん、あの、私、ハルちゃんを探すの、手伝います」
「え?」

 突然の申し出に奈津は戸惑ったような声を出した。それもそうだろう。初めて会った人間が級に追いかけてきて呼び止め、猫探しを手伝うなんて言われたら警戒するに決まっている。香澄はなんと言えばいいか慌てて考える。

 猫神社への信仰を取り戻したいんです、なんて言っても余計に変に思われる。しばらく悩んだのちに、香澄はポツリと呟いた。

「家族がいなくなって寂しい気持ち、わかるので」

 それは香澄の紛れもない本音だった。奈津は一瞬目を見開き、そして小さく「そっか」とだけ呟いた。それ以上何も聞かなかったのは奈津の優しさなのかもしれない。

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「はい。あの、いつからハルちゃんはいなくなったんですか?」
「……昨日の夕方、私が仕事から帰ってきたときには部屋にいたんだけど、洗濯を取り込むために窓を開けたら隙間から出て行っちゃったみたいで……。保健所と警察にも連絡したんだけどどっちもまだ……」

 奈津はぎゅっと目を瞑る。きっとそのときのことを思い出しているのだと思うと胸が痛かった。

「私が気をつけていたら外に出ることもなかったのに……。今頃お腹を空かせているかも知れない。鳥に虐められてるかも知れない。そう思うと……」
「奈津さん……」

 涙ぐむ奈津に、大丈夫ですよなんて言葉が気休めにしかならないことはわかっていた。それでも言わずにはいられない。

「大丈夫です。ハルちゃんはきっと見つかります。そしたらお腹いっぱい美味しいご飯を食べさせてあげましょうね」
「そう、ね」

 力なく微笑む奈津の姿に、香澄は何が何でもハルを見つけてみせると、そう心に誓った。テンテンが反対しても構わない。たとえ猫神社への信仰が増えなくたっていい。これは香澄がそうしたくてすることなのだから。

 その日から、香澄は奈津と一緒にハルを探した。レインボウの開店前や昼休み、閉店後も近くを見て回った。いなくなっていから一日以上経っていることもあって、定休日の日には少し足を伸ばしてJR高槻駅の南側や阪急高槻駅の方にまで足を伸ばしてみた。それでもハルの姿は見つからなかった。

 商店街にも迷子猫のポスターを貼らせてもらったけれど、特に情報は寄せられていないようだった。いったいハルはどこに行ってしまったんだろう。

 途方に暮れた香澄は、その日の夕方猫神社へと向かった。テンテンの力を借りるために。雪斗のおかげで少しではあるけれど力が戻ったと言っていた。あのときは反対されたけれどもう一度頼んでみよう。テンテンだって鬼じゃないんだ。神様の使いなんだ。真剣に祈ればきっと聞いてくれるに違いない。そう、思っていた。でも。

「駄目だ」

 猫神社の前にいたテンテンに祈るように頼むけれど、香澄の願いも空しくたった三文字で断られてしまった。

「どうして? ハルの居場所を見つけてさえくれれば、あとは私たちで迎えに行くから」
「断る。どうしてもというなら、お前の願いをそれに変えれば考えてやらんこともない」
「え?」
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