ホントのキモチ!

望月くらげ

文字の大きさ
上 下
15 / 16
第六章

6-1

しおりを挟む
 体育の時間の一件以来、樹くんは休み時間もそして放課後も私と一緒に過ごすようになった。
 たださすがに顔面にボールをぶつけたのはやり過ぎだと思ったのか、それとも先生から叱られたからか、浅田さんが私に対して嫌がらせをすることもあれ以来なくなってはいたのだけれど。
 それでも「大丈夫だよ」と言うたびに樹くんが申し訳なさそうな顔をするので、なんとなくズルズルとそのままになっていた。
 あの日から私は自分の中の小さな棘が大きくなっていることに気づいていた。本当はずっと気づかないふりをしたかった。気のせいだって、一時的なものだって。
 なのに棘はどんどん大きくなり、目を背けることができなくなり始めていた。
 放課後の教室で、結月の席に座って樹くんは私に話しかける。その笑顔を見ながら心がざわつく。
 あんなに好きだった樹くんといっしょにいるはずなのに、どうして――。
「ねえ、加納さん」
「え?」
 樹くんの呼びかけに私が顔を上げると、鼻先が触れそうな程の距離に樹くんの顔があった。そのまま樹くんは目を閉じると――私の方へと顔を寄せた。
「やっ……!」
 キス、される。
 そう思った瞬間、私はその身体を押し返してしまっていた。
「あ……」
 目の前に座る樹くんが、傷ついたような表情を浮かべているのがわかった。でも、どうしてもそれだけは受け入れられなかった。
 だって、だって。
「泣かないで」
「え――」
 樹くんに言われて私は自分の頬に触れた。いつの間にか溢れだしていた涙が頬を濡らしていた。
「なん、で、わた……し……」
 次から次へと溢れだしてくる涙に、私はようやく気づいた。
 私が好きなのは、本当に好きなのは樹くんじゃなくて、蒼くんだったんだ。
 ぶっきらぼうで、口が悪くて、でも本当は凄く優しい蒼くんのことがいつの間にかこんなにも好きになっていたんだ。
「わた……し、ごめ……な、さ……」
「謝らないで」
「で、も……」
 樹くんは悲しげに首を振る。その表情があまりにも辛そうで、胸の奥が痛くなる。
 けれど樹くんはそんな私にそっと微笑みかけた。
「自分の、本当の気持ちに気づいた?」
「ごめ……な、さ……」
「泣かないで」
 私の頬に樹くんが手を伸ばした。けれどその手が私の頬に触れる前に、誰かが樹くんの腕を掴んだ。
「何泣かせてんだよ」
「あお、い、く……」
「ふざけんなよ、お前」
 違うと、樹くんが泣かせたわけじゃないんだと言いたいのに上手く声が出せない。
 そんな私の態度をどう受け取ったのか、蒼くんは樹くんの学ランの胸元を掴んだ。
「俺は泣かせるためにこいつを諦めたんじゃねえんだぞ!」
「ち、が……」
 蒼くんの腕を掴み、必死に首を振る私を蒼くんは驚いたような表情で見つめていた。
「私が、悪いの。樹くんは悪くないの」
「どういうことだよ」
「私が……本当の、自分の気持ちに気づかなかったから」
 前までならきっと言えなかった。自分の気持ち押し殺して、樹くんのことを受け入れて楽な方に誰も傷つかない方に逃げようとしていたと思う。
 でももう、自分の気持ちをぞんざいに扱いたくない。なかったことにしたくない。
「本当の気持ちって……」
 蒼くんは思わずといった様子で樹くんから手を離す。その手を私はぎゅっと握りしめた。ゴツゴツとしていて、それでいて優しい手を。
「好きです」
「……は」
「蒼くん、私は……あなたのことが、大好きです」
 今度は間違いじゃない。私の、本当の気持ち。
 まっすぐに伝えた言葉が届いたかどうかは――真っ赤な顔で口を開けたまま私を見つめている蒼くんの姿を見たらわかった気がした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

おかたづけこびとのミサちゃん

みのる
児童書・童話
とあるお片付けの大好きなこびとさんのお話です。

とあるぬいぐるみのいきかた

みのる
児童書・童話
どっかで聞いたような(?)ぬいぐるみのあゆみです。

ヴァンパイアハーフにまもられて

クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。 ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。 そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。 ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。 ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。

なんでおれとあそんでくれないの?

みのる
児童書・童話
斗真くんにはお兄ちゃんと、お兄ちゃんと同い年のいとこが2人おりました。 ひとりだけ歳の違う斗真くんは、お兄ちゃん達から何故か何をするにも『おじゃまむし扱い』。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

不死鳥の巫女はあやかし総長飛鳥に溺愛される!~出逢い・行方不明事件解決篇~

とらんぽりんまる
児童書・童話
第1回きずな児童書大賞・奨励賞頂きました。応援ありがとうございました!! 中学入学と同時に田舎から引っ越し都会の寮学校「紅炎学園」に入学した女子、朱雀桃花。 桃花は登校初日の朝に犬の化け物に襲われる。 それを助けてくれたのは刀を振るう長ランの男子、飛鳥紅緒。 彼は「総長飛鳥」と呼ばれていた。 そんな彼がまさかの成績優秀特Aクラスで隣の席!? 怖い不良かと思っていたが授業中に突然、みんなが停止し飛鳥は仲間の四人と一緒に戦い始める。 飛鳥は総長は総長でも、みんなを悪いあやかしから守る正義のチーム「紅刃斬(こうじんき)」の あやかし総長だった! そして理事長から桃花は、過去に不死鳥の加護を受けた「不死鳥の巫女」だと告げられる。 その日から始まった寮生活。桃花は飛鳥と仲間四人とのルームシェアでイケメン達と暮らすことになった。 桃花と総長飛鳥と四天王は、悪のあやかしチーム「蒼騎審(そうきしん)」との攻防をしながら 子供達を脅かす事件も解決していく。 桃花がチームに参加して初の事件は、紅炎学園生徒の行方不明事件だった。 スマホを残して生徒が消えていく――。 桃花と紅緒は四天王達と協力して解決することができるのか――!?

絵日記ミケちゃん

水玉猫
児童書・童話
すべては、サンタクロースさんのプレゼントからはじまった! 三毛猫ミケちゃんとテディベアのクマパンちゃんの12ヶ月のお話です。 毎月小さなお話をいくつか。 どんな12ヶ月になるのかな?

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...