ホントのキモチ!

望月くらげ

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第五章

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 その日の放課後、私のことを心配する樹くんに「大丈夫だよ」と伝えて、一人帰り道を歩いた。
 委員会があるから待っててと言われたけれど、なんとなく一人になりたくて、ごめんねと断って帰ってきてしまった。
 一人で何を考えるでもなくぼーっと歩き続ける。
 ふと目に入ったのは、蒼くんと一緒に行ったゲームセンターの入っているショッピングセンター。
 あのとき取ってくれたゆるりうさぎのぬいぐるみは、今も私の部屋に飾られていた。
 辺りを見回して同じ学校の人が歩いていないことを確認すると、私はそっとお店の中に足を踏み入れた。
 あのときと同じようにエレベーターに乗り七階へと向かう。開いた扉の向こうに広がるのは、蒼くんと過ごしたあの日と変わらない光景だった。
 でも、どうしてだろう。あの日感じたワクワク感はそこにはなく、ただただ不安な世界が広がって見えた。
「やっぱり、帰ろう」
 エレベーターを振り返ると、ちょうど下に行ってしまったようでしばらく戻っては来なさそうだった。
 仕方なく近くにあったベンチに一人座る。
 そもそもここに来てどうするつもりだったのか。
 蒼くんに会いたかった? ううん、そうじゃない。そうじゃないはずだ。
 でも……。
「あれ? あおの彼女ちゃん?」
「え?」
 その聞き覚えのある言い回しに思わず振り返ると、そこには――。
「えっと、蒼くんの……」
「そっ、あおの友達。彼女ちゃんどうしたの? あおは? こんなところで一人にしちゃ危ないよー?」
 先輩は私が蒼くんと来ていると勘違いしているようで
「ったくー」
 と、呆れたように言うと、私の隣に腰掛けた。
「えっと」
 私たち別れたんです、そう言うために口を開こうとする私より早く、先輩はいたずらっ子のような表情を浮かべると私の顔を覗き込んだ。
「ねえねえ、彼女ちゃん。質問があるんだけどいい?」
「質問、ですか? えっと、はい」
 勢いに押されて頷いてしまう。
「あのさ、一年の春先にさそこの桜並木で泣いてなかった?」
「え?」
 一年の、春先? 桜並木?
 必死に記憶を遡る。えっと、何か、そうだ。
「あっ、ありました。でもどうして知ってるんですか?」
 入学式の数日後、ずっと入退院を繰り返していたチワワのさくらがついに亡くなった。
 その日は入学後の学力テストがあるからと、さくらのそばにいたいと言った私の意見なんて通るわけもなく、無理やり学校に行かされてしまったのだ。
 それでもやっぱり辛くて、あの桜並木の下を歩いた瞬間、どうしようもなくさくらのことを思い出してしまって涙が溢れてこぼれ落ちた。
 でも、それをどうして先輩が知ってるのだろう?
「やっぱり。ね、そのときさ誰かにハンカチを借りたりした?」
「あ、そうです。でも私それが誰かわからなくて、今もずっと家に置いてあるんですけど」
「くふ……ふふふ。俺ね、それ誰のハンカチか知ってるんだ」
「え? 本当ですか?」
「知りたい?」
「知りたいです!」
 もったいぶるようにニヤつくと、先輩はもう一度「くふふ」と笑う。そして。
「あおだよ」
「……え?」
「それ渡したの、あおだよ」
「冗談、ですよね?」
「……どうだろうね?」
 尋ねる私に、先輩は笑みを浮かべるだけだった。
「あ、ごめん。ちょっとツレが呼んでるから俺行くね」
「あっ」
 先輩は立ち上がるとゲームセンターの方へと歩き出す。
「あのっ」
「……あおね、あの日一目惚れしたんだって」
「え?」
「桜の下で泣く女の子に。それって誰のことだろうね?」
 そういうと先輩はひらひらと手を振って去って行った。
 残された私は、ただその場から動けずにいた。

 夜、私は机の上に置いたゆるりうさぎのぬいぐるみを手に取った。
 あの日、蒼くんに取ってもらったぬいぐるみ。
 どうしたいかわからず、今まで机の上に飾っていたけれど。
 その隣に、引き出しの奥に大事にしまっていたハンカチを置いた。
「蒼くん……」
 思わず呟いてしまった名前に、慌てて口を両手で押さえた。
 名前を口にしただけで心臓がドキドキしている。この感情の名前を本当は知っているのかも知れない。
 でも……。
 蒼くんは賭けをしていただけで、別に私が好きだったから付き合ったわけじゃない。
「っ……」
 どうしてだろう。わかりきっていたことのはずなのに、こんなにも胸が痛くて、苦しいのは。
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