ホントのキモチ!

望月くらげ

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第四章

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 一時間目、二時間目と授業が終わるたびにそわそわしていたけれど、結局四時間目が終わるまで樹くんから声をかけられることはなかった。
 そして、昼休み。
「ご飯食べ終わったら、ちょっといい?」
 お弁当を広げていた私に、樹くんはそう声をかけた。
「う、うん」
「私一人で食べるから今から行ってきてもいいよ?」
「それはダメだよ。そんな邪魔はしたくないからさ」
 結月の提案を、樹くんは優しい笑みで断ると自分のお弁当を掲げて見せた。
「僕、これから視聴覚室でご飯だからさ。食べ終わったらそっちに来てくれる?」
「わ、わかった」
「ありがと」
 もう一度微笑むと、樹くんは教室をあとにする。
 私はというとその後食べたお弁当の味が全くわからないぐらい緊張したまま、いつもの倍ぐらいのスピードで食べ、慌てて視聴覚室へと向かった。
 視聴覚室は私たち二年生の教室のある三階の一番奥にあった。普段、なかなか入ることのないそこのドアをそっと開けると、樹くんの姿があった。
「あの……」
「あ、加納さん。来てくれたんだね」
 こっちこっちと手招きをする樹くんの隣の席に私は座った。こんなふうに隣の席に座るなんて今までなかったから妙にドキドキしてしまう。
 でもそんな素振り見せないように、私はコホンと咳払いをしてから口を開いた。
「えっと、話って」
「うん……。蒼からね、聞いたよ。告白のこと」
「え……?」
 その言葉の意味を理解するまでに軽く三十秒は必要だった。
 告白のことって。まさか。
「僕に、告白しようとしてくれてたって……本当?」
 そんなことまで話してしまったのか、と驚きを隠せない。だって、そんなの。
 私は頷くことも否定することもできなかった。けれど、そんな私の戸惑いを樹くんは皇帝と受け取ったようだった。
「蒼のことは僕が怒ったから」
「怒ったって……」
「人の気持ちをもてあそぶようなことはしちゃ駄目だって。賭けの対象にするなんて以ての外だって。……特に、加納さんの気持ちを、なんて」
 樹くんは私の目をジッと見つめる。その瞳に吸い込まれそうになる。
 私の目を見つめたまま、樹くんは口を開いた。
「ね、さっきの質問の答え教えてよ。僕と間違えて告白したって、本当?」
 こうやって見つめられると、何も隠せない。
 私は視線を少し泳がせたあと、観念して小さく頷いた。
「嬉しい」
「え?」
「……僕、ずっと加納さんのことが好きだった」
「う、そ」
「本当だよ」
 樹くんは私の手をそっと握りしめた。その手から心臓の音が伝わってくる。
「信じてくれた?」
 もう一度頷いた私に、樹くんは優しく笑みを浮かべた。
「僕と付き合って欲しい」
「っ……」
 ずっと好きだった人から告白されたというのに、なぜか心は晴れないままで。どこか霧のかかったような状態だった。
「……大丈夫。誰かが何か言ったとしても、僕が守るから」
 樹くんは私が蒼くんと別れてすぐに樹くんに乗り換えた、と言われるのを不安がっていると想ったのかも知れない。
「大丈夫だから」と言って微笑むと握りしめた手にぎゅっと力を込めた。
「好きな人が辛い顔をしているのが悲しいんだ」
「樹くん……」
「僕に、加納さんを守らせて欲しい。……ダメ、かな」
 樹くんにここまで言われて嬉しくない女子なんているのだろうか。
 何もためらうことなんてない。好きだった人が私のことを好きだと、守りたいとまで言ってくれているんだ。
 だからこの、胸の奥にほんの少しだけ感じる痛みは、まるで棘が刺さったような僅かな痛みは気のせいなんだとそう思い込む。
 私は目を伏せると、そっと頷いた。
 そんな私に、樹くんは満面の笑みを浮かべる。それはいつも見ている優しい微笑みではなく、嬉しくてたまらないとでもいうかのような喜びに溢れた笑みだった。
「ありがとう。絶対に大事にするから」
 樹くんはそう言うと、嬉しそうな笑みを浮かべた。
 普段見ている優しげな表情とは違い、心の底から喜んでいることが伝わってくる。初めてみる表情。なのに――なぜか私はその笑顔に、蒼くんを思い出してしまっていた。
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