ホントのキモチ!

望月くらげ

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第一章

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 光が丘中学校には人気者の双子の兄弟がいる。

「じゃあな」
あおい、授業サボっちゃ駄目だよ?」
「サボらねえよ」

「バーカ」と笑うのは中川蒼くん。やんちゃそうな顔つきで男子に大人気なの。運動神経も抜群で、先生にも刃向かうところがカッコいいと女子の中でも隠れファンがいるらしい。

「しょうがないなぁ」

 ふっと優しい笑顔を浮かべるのは中川いつきくん。誰にでも分け隔てなく優しくて、頭もいい優等生。女子の中で樹君を嫌いな子なんていないんじゃないかって言われているぐらい。
 もちろん私、加納かのうりんもその中の一人。
 女子たちは口々に「おはよう」と声をかけ、樹君も優しい笑みを浮かべて「おはよう」と一人ずつに挨拶してくれる。
 樹君の席は窓際の後ろから二番目。同じく窓際の前から二番目に座る私の席の横を樹君は通って自分の席へと向かった。

「っ……」

 おはようって言いたいのに緊張と恥ずかしさから上手く声が出ない。だって、クラスの女の子たちみんな樹君のことを視線で追いかけてるから……。一組で一番可愛いと言われている浅田さんも樹くんに夢中だ。
 そんな中、顔も普通、頭だってそこそこ私が、樹くんに挨拶をするなんて、みたいな空気が暮らすの中にはある。
 だから本当は挨拶したかったけど、私は樹くんに気づいていないふりをして、一つ前の席に座る親友の椎名しいな結月ゆづきの背中を叩いた。
 眼鏡とポニーテールがトレードマークの結月。しっかりもので、この二年一組の委員長を務めている。結月みたいにハッキリと自分の気持ちが言えたら、挨拶ぐらいできるのかもしれない。
 ため息を吐きそうになるのを必死に抑えて、私は結月に声をかけた。

「ねえ、結月。今日の一時間目ってさ」
「ん?」

 私の声に、結月が読んでいた小説を閉じて振り返るのと、私たちの上に影が落ちるのが同時だった。

「え?」

 思わず顔を上げると、そこには笑顔を浮かべた樹くんの姿があった。

「おはよ、加納さん」
「え、あ、えっと、おは、よ」
「椎名さんもおはよう」
「おはよ」

 ドキドキしている私とは反対に、結月は特に興味がないとばかりに返事をする。樹くんはそんな私たちにもう一度笑顔を向けると、そのまま自分の席へと向かって行った。

「い、今樹くんからおはよって!」
「言ってくれたね。よかったじゃん」
「なんで結月はそんなに冷静なの?」
「だっていくら顔がよくて優しかったって同級生なんて子どもだし」

 結月曰く、男の人は三十を超えてから、らしい。三十歳ってパパの弟と同じ年だよ? そんな人に対してときめくって私にはよくわからない。
 私はさりげなく振り返ると樹くんの姿を視界の端に捉えた。カバンの中から教科書を出して机の中に入れているようだった。

「あっ」

 私の視線に気づいたのか、樹くんは教科書を入れていた手を止めると、まるで親しい人にするみたいにひらひらと手を振ってくれた。
 突然のことに顔が熱くなって、私は慌てて目を逸らしてしまう。

「何やってんの」
「だっだって! 今! 手!」
「はいはい。ほら、そろそろホームルームが始まるよ」

 呆れたように肩をすくめると、結月は前を向いてしまう。
 私はさっきの樹くんの仕草が忘れられずドキドキする。
 と、いうか待って。今私、樹君が手を振ってくれたのに無視したみたいにならなかった? 感じ悪かったよね、どうしよう。

「っ~~」

 私は勇気を振り絞るともう一度樹くんを振り返った。
 樹くんはすぐに私の視線に気付き首をかしげる。そんな樹くんに、さっきしてもらったみたいにひらひらと手を振った。

「ふ……ふふっ」

 私の行動に、樹君は一瞬驚いたような表情を浮かべたけれど、すぐに笑みを浮かべるともう一度ひらひらと手を振ってくれた。
 その笑顔のあまりのかっこよさに見とれてしまう。けれど、教室のドアが開く音がして急いで前を向いた。
 教室に入ってきたのは思った通り担任の坂井先生で、教卓の前に立つとホームルームを始めた。
 けれど私はさっきの樹君を思い出して、にやける顔をなんとか隠すので精一杯だった。
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