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第四章:真昼に昇る月

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 相変わらず鉄橋で日が暮れるまで過ごして土日が終わった。違ったことといえば、巴ちゃんが来なかったことだろう。土日で学校も休みだし、日曜日はお母さんの誕生日だと言っていたからきっと家で楽しく過ごしたんだと思う。
 そして月曜日がやってきた。約束の、月曜日が。
 天高く青空が広がる。今日から一週間、試験休みだ。それでも家にいたくなかった私は、巴ちゃんに話していた通り朝から鉄橋に向かった。

「暇人だって言われても、仕方ないかもしれないなぁ」

 でも、行きたくないところはあっても行きたいところもやりたいこともなかった私は、昨日も一昨日も歩いた道を今日も歩き、こうやって鉄橋に向かってしまうのだ。
 巴ちゃんは今日から通常授業だって言っていた。巴ちゃんが来るまで何をしていようか。そんなことを考えながら歩いていると――橋のたもとで巴ちゃんと出会った。

「え、あれ?」
「二葉ちゃんが朝からいるって言ってたから、私も来ちゃった」
「学校は?」
「今日はね、なんと創立記念日!」
「そっか」

 本当は疑うべきだったのかもしれない。でも、出会ったときとは比べものにならないぐらいの笑顔でそう言う巴ちゃんにそれ以上何も言えず、私たちは鉄橋を歩くとレイ君の元へと向かった。
 私たちを見たレイ君は一瞬驚いた表情を浮かべたあと、ふっと笑った。

「二人とも、朝からこんなところ来ちゃって暇なの?」
「一日中ここにいるレイ君よりは暇じゃないよ」
「ねー」
「あ、言ったね?」

 屈託なく笑う巴ちゃんに、少しホッとする。それから私たちはとりとめのない時間を過ごした。このまま今日が終わり、巴ちゃんがお母さんと話をする。そんなに一日になると誰もが思っていた。でも――。

「あ……」
「え?」

 その人たちは温和そうな笑顔を浮かべて、カンカンと足音を立てながらやってきた。ニッコリと笑っているのに、目だけまっすぐに私たちを見据えていてなんとも言えない不気味さを携えて。

「こんにちは」
「……こんにちは」
「君たち、今日学校は?」
「……それは」

 それはパトロール途中の、警察官だった。私と巴ちゃんの姿をジロジロ見て、何かを後ろの警察官に伝えている。

「サボりかな? いけないなー」
「きょ、今日は試験休みです」
「試験休みねぇ。じゃあ、そっちの子は?」
「この子は――」
「君に聞いてるんじゃないんだ。ねえ、お嬢ちゃん。今日学校は?」
                                           
 巴ちゃんの目線に合わせるようにかがむと、警察官は問いかけた。でも、巴ちゃんは何も言わず首を振るだけだった。

「確認取れました。やはりそちらの子は――」
「そうか。ねえ、君たち。申し訳ないんだけど、ちょっと今から来てくれるかな」

 尋ねているようで答えなんて求めていない。警察官は一方的に言うと、私たちの腕を掴んでパトカーに押し込んだ。
 それからは一瞬だった。パトカーに乗せられて私と巴ちゃんは最寄りの警察署に連れて行かれた。
 テレビでよく見る取調室のようなところ、ではなく。小さな会議室のようなところに連れて行かれ、私たちは話を聞かれた。
 しばらくすると、どこからか別の警察官が現れて、目の前の貼り付けたような笑顔を浮かべる警察官に耳打ちした。

「君は試験休みだっていうのは本当みたいだね。確認が取れたよ。でも、小学生の子が学校をサボってあんなところにいるのがいいことじゃないことは高校生の君ならわかるよね?」
「え……? でも、創立記念日って……」
「あの子がそう言ったのを信じたの? じゃあ、君は今日外で小学生の子が歩いているのを見た? 本当は、どこかで違うって、わかってたんじゃないの?」

 警察官の言葉に、私は何も言えなくなった。
 たしかに、私の家から鉄橋まで歩いてくる間に子どもの姿なんてほとんど見なかった。創立記念日で休みだとしたら、もっとたくさんの子どもの姿を見てもおかしくないのに。
 でも、もしかしたら学区が違うのかもしれない。私立の小学校なのかもしれない。そう、思い込もうとしていた。
 本当は――どこかで気づいていたのに。

「もしかして、先週もこの子と一緒にあそこでいた?」
「え……? どうして……」
「いたんだね。……さっき学校に確認したら、彼女先週一週間、風邪を引いていることになってて休んでいたらしい」
「嘘……」

 風邪を引いていることになってて……? だって、先生の勉強会で午前授業だって、そう言っていたのに……。
 どうして鵜呑みにしていたんだろう。それほどまでに、巴ちゃんは学校から、ううん。クラスメイトから逃げたがっていたのに。

「もしかしたらこの子が嘘をつかせていたのかもしれないですね」

 耳打ちする声がやけに大きくて私は顔を上げた。今、なんて……。
 
「どうします? 未成年者略取でこっちの子も補導しますか?」
「そうだなぁ。そうせざるを得ない、か」
「違うの!!」

 目の前で繰り広げられる会話に、何も言えずにいた私はその声で我に返った。
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