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第一章:青く輝く月明かりの下で
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しおりを挟むレイ君と出会った鉄橋から歩いて十五分のところにある閑静な住宅街の中に、私の住む家はあった。普段は真っ暗な家に帰るけれど、今日はいつもよりも遅いこともありすでに部屋には電気がついていた。
どうやらお母さんが先に帰ってきているようだった。
「ただいま」
玄関のドアを開け、リビングにいるお母さんに声をかけると、夕食を作っているのだろうか。水の音に混じって「おかえりー」と言うお母さんの声が聞こえた。
「あ、そうだ二葉」
そのまま二階に上がろうとした私を、お母さんが引き留めた。
普段よりも帰ってくる時間が遅かったことに対して小言を言われるかもしれない。そうしたらなんて言おうか。友達と喋ってた? 本屋に寄ってた? それとも――。
「あなた今日、お姉ちゃんのところ行ってくれなかったの?」
でもお母さんが気にしていたのは、そんなことではなかった。
私がどこで何をしていたか、なんて些細なことよりもお姉ちゃんの洗濯物を持って帰ってきたかのほうが気になる。どうしてお姉ちゃんのところに行かなかったのか、それにしか関心はないのだ。
「っ……忘れてた!」
「えー? 頼んでたでしょー? もう、それならママが寄ってきたのに」
ブツブツと文句を言うお母さんの言葉を無視して、私は二階にある自分の部屋へと階段を駆け上った。真っ暗な部屋の電気をつけて勉強机に投げるようにして鞄を置くとベッドに飛び込んだ。
嫌だ、嫌だ。
私のことなんて何にも見てない、それなのにあなたも大事なのよなんて上辺だけの言葉を吐く両親が嫌で仕方がない。
いっそのこと、病気になったのが私だったらよかったのに。そうしたらお父さんもお母さんも、私のことを大事にしてくれたのかな。
「ふふ……そんなのあり得るわけないし……わら、える……」
笑いたいのに、涙が出る。
まるで私が病気になっていたとしても両親が大事だったのはお姉ちゃんだけだって、そう自分自身の心が叫んでいるかのようで、悲しくて情けなくて、それから寂しかった。
「ああ、そっか」
だから私は、レイ君の言葉が心地よかったんだ。お姉ちゃんを知らないレイ君は私自身を見てくれている。そんな気がして。
「幽霊、か」
いったいどんな気持ちであそこにいるんだろう。誰にも気付かれることなく、誰にも干渉することなくあの場所にずっといる彼は……。
「なんだ……私と、変わらないじゃない」
生きているのに、まるで誰からも必要とされず、ただただスペアとしての存在として生かされているだけの私と変わらない。そんな事実に涙があふれてくる。別に悲しくなんてないはずなのに、わかっていたことのはずなのに。どうしてか涙が止まらない。チクリと痛む胸を包み込むように膝を抱えると、私は頭から布団をかぶった。
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