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第二章《抜剣・発火・夜光》

捕食者の遊戯

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 王都南側――住居が多く建ち並ぶ、言わば住宅街。
 路地の隙間から覗き見る。

「~~♪」

 買い物でもしていたのか、紙袋を抱えている男を注視する。
 鼻歌を歌いながら、厚底のブーツで石畳を踏み歩いていた。
 どこにでも居る青年。しかし、それは数日前に行方不明となった王都の住民だ。
 元の彼は一人暮らしであり、シャッツは彼を食べて成り代わっている。
 他にも報告・発見されていないだけで捕食された人は大勢居るだろう。と、ソフィアさんが言っていた。

「エアリー、魔剣の調子はどう?」
「まだ……剣自体はだいぶ扱えるようになったんだけどな。どうも反応が悪い」
「そっか……無茶はしないでね」
「どんだけ団長に扱かれたと思ってんだ。魔剣の力を使えなくてもあたしは充分戦えるよ。それよりフィアはどうなんだよ? 罪結晶はまだ預かってもらってるんだろ?」
「うん。今は騎士団の剣を借りてる。だから頼りにしてるね」

 さすが王都の騎士団で、剣の質は充分良かった。
 そしてイグ=ナイトの再調整には時間がかかる。今は調整箇所がどこなのか分かればそれでいい。他にもいろいろ素材が必要だけど、今は――

「角を曲がった。追跡を続行する」

 シャーロットの言葉と同時に、私達はシャッツを追う。

「シャーロットが先行する。二人は後を追ってきて」
「分かった!」
「おう!」

 メイド服のまま音もなく走るシャーロットの後を追いかけていく。
 シャーロットが角を曲がるのを見届け、私達は角の前で止まり様子を窺った。

「止まれ。殺す」

 男――シャッツへ、静かに淡々と言い放つ。

「こ、殺すって、いきなりなんですか? 何かの間違いでは? 俺は善良な国民ですよ。騎士様」
「おまえが食った男は、確かに善良な国民。でもおまえは違う」

 両端は集合住宅。でも、住民は一人も居ない。既に避難は完了していて、二次被害を避けている。
 日が暮れ、道が影になったその場所が奴の……シャッツの死に場所になる。

「へー、バレてるのな。俺の擬態、そんなに分かりやすい? おかしーなー。ちゃんと隅々までコピーしてるはずなんだけど」
「騎士団を舐めない方がいい」
「ふむ。それで君は……騎士様なのかな? 従者の格好した騎士だなんてなかなか滑稽で面白い」

 どろりと、男の顔が崩れて半透明なゲル状に変わった。そして、今度は女性へと。
 豊満な体を日の下に晒し、ドレスを形成して変身が完了する。
 あれがミミクリー・スライム……姿形、全てを模倣してる……。

「君に擬態したらさ、騎士団を内側から壊滅できちゃったりしないかな? 適当に騎士を呼び出して、『ご奉仕するにゃ♡』って。うぅん良いねぇ……馬鹿な人間共ならきっと引っかかる」

 嘲笑い、自分の指を咥えてそのまま噛みちぎる。
 噛みちぎった指はすぐに元通り復元された。

「なあ、あいつ……もしかして剣が効かないんじゃないか……」
「うん。あれは挑発だよ」
「余裕ぶっこいて甚振ろうってわけか」

 スライムに半端な物理攻撃は有効打にならない。
 だからこそ魔剣がある。でも、私は普通の剣で、エアリーも満足に魔剣を使えない。
 それでもソフィアさんが私達にこのクエストを受けさせたのは、シャッツの弱点を知っているからだ。

「あ! もしかして自分には魅力がないって思ってる? 大丈夫大丈夫! 君は充分可愛いからさ、私が使ってあげたらきっと男を惹き寄せられるよ!」
「……奉仕活動はしない」
「いいや。君がそう思ってても結局は僕が擬態して演じるんだ。嫌でも君の体を穢す。穢して、人を貶める。俺に食われる時の人間の顔は愉快そのものさ。くふふ……この体もね、猫耳の男の姿で近寄ったらコロッと食べられちゃったんだ」

 ――ああ、シャッツが再び変身していく。
 擬態は能力もコピーすると聞いていたけど、それはつまり、それだけの情報量を処理できるということだ。捕食した人の記憶を持っていても、何もおかしくない。

「……シャーロットもそうなんだろ? オレと来いよ」

 それは写真で見たあの人と同じ姿。
 優しげな声……だけれど、薄汚い何かがひしひしと伝わってくる。

「エイデンハイト……」

 もう居ないその人を見て、シャーロットは表情を歪ませた。
 ソフィアさんから話が出た時の反応からして、並々ならぬ想いがあるとは思っていたけど……シャーロットはきっと、エイデンハイトという冒険者のことを――。

 シャーロットは顔を伏せたまま、エイデンハイトの姿に変身したシャッツへ歩み寄っていった。
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