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第二章《抜剣・発火・夜光》
オークを食ったスライム
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エアリーが疲れ果てて部屋に帰ってくることが多くなってきた。
帰るとすぐにベッドへ倒れ、ものの数秒で寝息を立て始めるから、ユースト団長に剣の使い方を教わっている……ということしか聞いていない。
でも、手にはマメができている。相当やり込んでいるようだった。
「……白夜の魔剣は団長に通用しなかった」
思うに、エアリーの体に馴染んでいない。魔剣の力が反発している。
エアリーの魔力で作ったはずなのに反発しているということは……原因は私だ。私の魔力が邪魔をしているんだ。
改良する必要がある。
翌朝、エアリーがユースト団長の元へ向かうのを見送り私は調査隊の研究所へ向かう。
「――ああ、ストック隊長なら仕事で留守にしていますよ。アレクくんもね」
白衣姿のソフィアさんがストックさんの椅子に座りながら言った。
「そう、ですか……聞きたかったことがあったんですけど……」
「ふむ。あなたの悩みなど正直どうでもいいのですが、隊長の手を煩わせるわけにはいきませんね。わたしが聞きましょう」
そう言うと……というか、ソフィアさんが言うことを分かっていたかのように、キッチンからシャーロットがティーカップを二つ持ってきてくれた。
「わたしは白湯で結構」
「フィア、なに飲む」
「あ……シャーロットのオススメがいいな」
「わかった」
すると、シャーロットがティーカップの前でパチンと指を鳴らす。
ちゃぽん……と、気付けばソフィアさんのティーカップにお湯が注がれていた。
「す、すごい……!」
「シャーロットは家事関係に使えそうな魔法をあらかた習得していますからね」
「いちばん得意なの、熱魔法。たくさんあっためる」
「そっか、お風呂のお湯も沸かしてくれてるもんね」
「えっへん。シャーロットを撫でてもいいぞ」
「あっ、よ、よしよし……シャーロットはすごいね~」
こうして、シャーロットはなにかと理由をつけて撫でられたがる。
自分自身にも熱魔法を使っているのか、それとも喜んでいるからなのか、撫でている手がとてもあたたかかった。
「お茶入った。飲め」
「ありがとうシャーロット! ……ん、おいしい……!」
「えっへん。撫でても」
「あーはいはいシャーロット。話が進まないからそのくらいに。それでフィアさん、何をお悩みですか?」
ソフィアさんはシャーロットに睨まれながら話を続ける。スゴく、睨まれている。
「え、えっと……エアリーの魔剣を作ったんですが、どうも合っていないみたいで。どうにか改良したいんですけど……」
「なるほど。であれば、まずは問題点を洗い出すところから始めるべきでしょう。使用者との相談も必要です」
「そうですね……エアリーと話してみます。もしかしたら使ってて感じたこと、あるかもしれないですし」
「ええ。それにもうそろそろクエストを受けても問題ないレベルにはなってきているでしょう? 試すにはいい機会です」
クエスト……ギルドに集まってくる様々な依頼。中には一人では危険な魔物の討伐依頼も含まれている。
そういうものは騎士団が率先して討伐に向かう。私も今は騎士だ。クエスト受注は可能だろう。
エアリーも、実戦経験を詰んだ方がいい頃合いかもしれない。
「それで、実は行ってきてほしいクエストがあるのです」
依頼書がテーブルに広げられる。
すると、それまでソフィアさんを睨んでいたシャーロットの目が依頼書に向いた。
「『オークを食ったスライム』……?」
しかし依頼書にはスライムではなくオークが描かれている。
「ミミクリー・スライム。消化した獲物の姿を真似る魔物です。特に今回の討伐対象は危険度が高い」
「なぜですか?」
「……奴は捕食したものの知性を自身のものにする。言い換えれば姿だけでなく能力もコピーしてしまうんですよ。オークはゴブリン同様、個体数が多い。他種族を何人も殺す害獣です。巣には未だ行方不明の冒険者が転がっているでしょう」
「……まさか、擬態して巣に忍び込んだら……」
「行方不明者を捕食し、その者と成り代わって生活に紛れます。というか、既にそうなっているんです」
テーブルが軋む音が響く。シャーロットが凄い力で握り潰していた。
「シャッツ……!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
不定形種、ミミクリー・スライム。
個体名《シャッツ》は、既に王都に潜伏しているという。
ギルドはシャッツを特別危険視しているらしく、調査隊第二班がその行動を追っている。
ソフィアさんに過去の記録を見させてもらった。
オークを食った、と言われた頃には既に行方不明の冒険者を三人捕食していると、その後の調査で判明している。
その冒険者の一人に、猫の獣人が居た。
「エイデンハイト――彼は優れた冒険者でした。正義感が強く、率先して騎士団の作戦に加わってくれていたので王都の騎士はみんな顔見知り……エイデンハイトの友人なんです」
銀髪の彼は、写真からでも分かるほど優しいオーラを漂わせていた。
短剣を二本携え、鎧はなく軽装。自身の身体能力を理解し、身軽さを重視した獣人らしい格好だ。
「今回、多くの者を食らったミミクリー・スライムが討伐対象ということで、調査隊が適任だと団長が判断しました。しかし、スライムというのはなかなか厄介でしてね。シャッツは特に警戒心が強いので、三名までしか参加出来ません」
たったの三人……いや、街中での戦闘になるなら、大勢だと住民が怖がってしまう。
「ソフィア、シャーロットが行く。行かせろ! エイデンハイトの姿のまま、悪行なんてさせない!」
「でしょうね。既に団長へ話は通してあります。本クエストには調査隊よりシャーロット、フィアを。そして部隊未所属のエアリーを参加させます。リーダーはシャーロット、お願いしますね」
「任せろ」
鋭い目付きのまま、シャーロットはそう言った。
「くれぐれも油断のないように。民を護る騎士に油断も怠慢もあってなりませんからね」
ソフィアさんの忠言を受け止め、私達はエアリーと合流して王都の南へ向かった――。
帰るとすぐにベッドへ倒れ、ものの数秒で寝息を立て始めるから、ユースト団長に剣の使い方を教わっている……ということしか聞いていない。
でも、手にはマメができている。相当やり込んでいるようだった。
「……白夜の魔剣は団長に通用しなかった」
思うに、エアリーの体に馴染んでいない。魔剣の力が反発している。
エアリーの魔力で作ったはずなのに反発しているということは……原因は私だ。私の魔力が邪魔をしているんだ。
改良する必要がある。
翌朝、エアリーがユースト団長の元へ向かうのを見送り私は調査隊の研究所へ向かう。
「――ああ、ストック隊長なら仕事で留守にしていますよ。アレクくんもね」
白衣姿のソフィアさんがストックさんの椅子に座りながら言った。
「そう、ですか……聞きたかったことがあったんですけど……」
「ふむ。あなたの悩みなど正直どうでもいいのですが、隊長の手を煩わせるわけにはいきませんね。わたしが聞きましょう」
そう言うと……というか、ソフィアさんが言うことを分かっていたかのように、キッチンからシャーロットがティーカップを二つ持ってきてくれた。
「わたしは白湯で結構」
「フィア、なに飲む」
「あ……シャーロットのオススメがいいな」
「わかった」
すると、シャーロットがティーカップの前でパチンと指を鳴らす。
ちゃぽん……と、気付けばソフィアさんのティーカップにお湯が注がれていた。
「す、すごい……!」
「シャーロットは家事関係に使えそうな魔法をあらかた習得していますからね」
「いちばん得意なの、熱魔法。たくさんあっためる」
「そっか、お風呂のお湯も沸かしてくれてるもんね」
「えっへん。シャーロットを撫でてもいいぞ」
「あっ、よ、よしよし……シャーロットはすごいね~」
こうして、シャーロットはなにかと理由をつけて撫でられたがる。
自分自身にも熱魔法を使っているのか、それとも喜んでいるからなのか、撫でている手がとてもあたたかかった。
「お茶入った。飲め」
「ありがとうシャーロット! ……ん、おいしい……!」
「えっへん。撫でても」
「あーはいはいシャーロット。話が進まないからそのくらいに。それでフィアさん、何をお悩みですか?」
ソフィアさんはシャーロットに睨まれながら話を続ける。スゴく、睨まれている。
「え、えっと……エアリーの魔剣を作ったんですが、どうも合っていないみたいで。どうにか改良したいんですけど……」
「なるほど。であれば、まずは問題点を洗い出すところから始めるべきでしょう。使用者との相談も必要です」
「そうですね……エアリーと話してみます。もしかしたら使ってて感じたこと、あるかもしれないですし」
「ええ。それにもうそろそろクエストを受けても問題ないレベルにはなってきているでしょう? 試すにはいい機会です」
クエスト……ギルドに集まってくる様々な依頼。中には一人では危険な魔物の討伐依頼も含まれている。
そういうものは騎士団が率先して討伐に向かう。私も今は騎士だ。クエスト受注は可能だろう。
エアリーも、実戦経験を詰んだ方がいい頃合いかもしれない。
「それで、実は行ってきてほしいクエストがあるのです」
依頼書がテーブルに広げられる。
すると、それまでソフィアさんを睨んでいたシャーロットの目が依頼書に向いた。
「『オークを食ったスライム』……?」
しかし依頼書にはスライムではなくオークが描かれている。
「ミミクリー・スライム。消化した獲物の姿を真似る魔物です。特に今回の討伐対象は危険度が高い」
「なぜですか?」
「……奴は捕食したものの知性を自身のものにする。言い換えれば姿だけでなく能力もコピーしてしまうんですよ。オークはゴブリン同様、個体数が多い。他種族を何人も殺す害獣です。巣には未だ行方不明の冒険者が転がっているでしょう」
「……まさか、擬態して巣に忍び込んだら……」
「行方不明者を捕食し、その者と成り代わって生活に紛れます。というか、既にそうなっているんです」
テーブルが軋む音が響く。シャーロットが凄い力で握り潰していた。
「シャッツ……!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
不定形種、ミミクリー・スライム。
個体名《シャッツ》は、既に王都に潜伏しているという。
ギルドはシャッツを特別危険視しているらしく、調査隊第二班がその行動を追っている。
ソフィアさんに過去の記録を見させてもらった。
オークを食った、と言われた頃には既に行方不明の冒険者を三人捕食していると、その後の調査で判明している。
その冒険者の一人に、猫の獣人が居た。
「エイデンハイト――彼は優れた冒険者でした。正義感が強く、率先して騎士団の作戦に加わってくれていたので王都の騎士はみんな顔見知り……エイデンハイトの友人なんです」
銀髪の彼は、写真からでも分かるほど優しいオーラを漂わせていた。
短剣を二本携え、鎧はなく軽装。自身の身体能力を理解し、身軽さを重視した獣人らしい格好だ。
「今回、多くの者を食らったミミクリー・スライムが討伐対象ということで、調査隊が適任だと団長が判断しました。しかし、スライムというのはなかなか厄介でしてね。シャッツは特に警戒心が強いので、三名までしか参加出来ません」
たったの三人……いや、街中での戦闘になるなら、大勢だと住民が怖がってしまう。
「ソフィア、シャーロットが行く。行かせろ! エイデンハイトの姿のまま、悪行なんてさせない!」
「でしょうね。既に団長へ話は通してあります。本クエストには調査隊よりシャーロット、フィアを。そして部隊未所属のエアリーを参加させます。リーダーはシャーロット、お願いしますね」
「任せろ」
鋭い目付きのまま、シャーロットはそう言った。
「くれぐれも油断のないように。民を護る騎士に油断も怠慢もあってなりませんからね」
ソフィアさんの忠言を受け止め、私達はエアリーと合流して王都の南へ向かった――。
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