黒のフィア ~呪いの魔剣を作らされ、濡れ衣を着た女鍛冶師、断罪するため騎士となる~

ゆーしゃエホーマキ

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第一章《闇夜の灯火に触れる》

罪の剣

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 ――照り付ける太陽と人の熱気が混じって、皆のおでこに汗を滲ませるお昼時。

「いらっしゃいませー」
「きゃぁ~! なにこの子! かんわいい~~!」
「冷やかしはご遠慮くださーい」

 クガル・メインストリート、西門から徒歩1分の場所で黄色い声が響き渡った。
 魔法使いのお姉さんが目をハートにして手を伸ばす先には、私が拾った幼女……妖精のエアリーが立っている。
 不服そうな顔でお姉さんに撫でられるエアリーは、「オネーサン、キレーっすねー。ネックレスとかニアイソー」と、どうにもカタコトだがさりげなく、なんとかさりげなーく商品を買うよう誘導してくれた。

「わ、なにこれ綺麗。こんな精巧なデザイン滅多にお目にかかれないわ」
「あ、ありがとうございます」

 やっぱりエアリーを看板娘にして客引きをしてもらうのは正解だった。
「自分の剣を作るためのお金は自分で稼がないと」と言ったら、嫌々ながらもこうしてしっかり働いてくれている。
 そこまでして魔剣を欲しがる理由も気になるけど、まぁなんだっていい。
 私は言われた通り、オーダーメイドするだけだ。
 引き受けたその日から、エアリーの魔力を少しずつ貯めている。
 あとはお金を稼いで、魔剣作成用の素材を買い揃えればいいだけだ。

「なぁ、あたし一応、人目に付くとまずい種族なんだが」
「だから人間の姿で擬態してるんでしょ……? それに私の魔法でも隠してるから」
「いや……それはそうだけど、お前には見破られたし……」

 エアリーの姿は、紛うことなき人間の女の子。
 黒髪ロングに白のワンピース、ややツリ目ながらも愛らしい顔立ちをしていて、立っているだけでも集客効果を発揮する。

「私は人の魔力を見るの得意だから……」
「それがおかしいんだって。普通人間は他人の魔力を見たり出来ないんだから」

 初耳だ。普通に出来るものだと……いや、そういえば兄弟子さんはそんなことしていなかったっけ。

「そうよ。私は魔法使いしてるけど、自分の魔力しか消費出来ないし、ぶっちゃけ何にも見えないわ」

 会話が聞こえていたらしく、魔法使いのお姉さんが商品を眺めながらそう言った。

「お、おい、お前……あたしが妖精だってことバラしたら……」
「しないわよ。そんなことしたら折角のかわいこちゃんが解体されちゃうじゃない。妖精の目、妖精の血、妖精の羽、妖精の肉、妖精の骨、妖精の脳……その全てが高い魔力を保有し、どれかひとつでも売れば一生遊んで暮らせるでしょうけど」
「お前はそうしないのか?」
「ふふん、聞いてたのが優しいお姉さんでよかったわね。生憎、喋らないものには興味無いのよ」

 と、お姉さんは私を見ながら言った。
 それは私に興味が無いということでしょうか……?

「でもね、今はちょっと違うの。正直なところ、妖精の君よりも……私は喋らない店主さんの方が気になるかな」

 一瞬、風もないのにふわりと、三角帽子とローブが揺れた気がした。
 綺麗な黄金の髪が煌めいている。

「ねぇ、あなた、この辺りじゃ見かけない顔よね。最近来たでしょ」
「あ、いや、影が薄いもので……」
「自分で、そうしてるんでしょ。まるで皆、あなたを見ないようにしてるみたい。おかしいじゃない? お客さんの前でずーっとフードを深く被って、顔を見せないようにする店主なんて」

 ……まずい。

「あなたはその、どこかひっそりとした……そうねぇ……路地裏の、暗くて静かなところにポツンとある小さな怪しいお店なら、その格好でも違和感は無かったかもしれないわね」
「あ、あんた……一体何が言いたいんだ? クレームなら受け付けないぞ」
「……クレームで終わればいいわね」

 人混みに紛れているけど、金属が擦れる音が微かに聞こえる。
 鎧を着込んだ者の足音。

「あの、何か私に……御用でしょうか」
「……ここから西へずーっと進んだ先にある辺境の村には、勇者の剣も作ったという伝説級の魔剣鍛冶師が居るわ。弟子も多くて、何十人も彼の元で修行していたそうよ」

 魔法使いは淡々としていた。でも、言葉がやけに余計だ。

「二ヶ月ほど前、そのお弟子さんが皆殺しにされた。魔剣鍛冶師は大怪我を負ったけど、なんとか逃げて騎士団に通報したんだって」
「それが、私とどんな関係があると言うんですか」
「……怪我は全て打撲。お弟子さん達も全員、撲殺。調べた結果、体に付着していたが見つかったわ。酷いよね。何度も殴られた痕が残っていたわ」

 ………………。

「そして数日前、ギルドに未報告の討伐済みゴブリン4匹を騎士団が発見した。しかも頭がひしゃげていたらしいわ。ビックリよね~、怖いわね~……つまり犯人は王都に潜伏してるのよ」

 どうやら、騎士団へ手錠を売りに行かなかったのは正解だったみたいだ。
 ゴブリンが私を知っていたんだから、王都にもきっとそういう人が居ると思ってはいたけど、まさか倒したゴブリンが見つかるなんて。

「店主さん。あなたが背負っている……少し興味があるの。あなたが作ったものはどれも素晴らしい出来栄えだし、とても良い魔力が込められているのを感じられる。ぜひ、それも見させてもらいたいわ」

 白銀の鎧を着た人間が五人ほど、人混みを掻き分けながらこちらへ走ってきていた。

「ねぇ、いいかしら。さん?」
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