Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

文字の大きさ
上 下
213 / 218
終章 大切なトラウマ

5

しおりを挟む
 声がした方を振り返ると、そこには茶色の髪を刈り上げ、無精ぶしょうひげを生やして眼鏡をかけている武骨ぶこつそうな男が立っていた。千景は男の姿を目で捉えた瞬間に、身構えた。透明状態を維持しているのに、男にはこちらの姿が見えている。

「そんな怖い顔をしなくてもいいぞ少年、少なくとも今は味方だ」

――今は? 引っかかる物言いをする

「そんな目で睨むなよ、あいつにきつい一撃を食らわせたのをお前も見ていただろ、少年?」男が手に持っている巨大な黒い十字架に、円形の突起物がついたもので、賢石けんせきを指しながら言った。千景は男への警戒けいかいを解くことなく「ああ、見ていた。ただ俺は少年なんて言われる年じゃない」と返した。

「そうかい、大分若く見えるな、まあ考えてみればそりゃそうか、あれだけ強いんだから、年もそれ相応にいってるか」

「お前は何者だ?」

「いきなり本題かい、初対面同士もっと会話を楽しもうぜ」

「俺は正体を知らないやつと会話をしない、せめて名前を名乗ったらどうだ?」

「そうかあ……まあ隠したところで、お前にはいつかバレるだろうし先に言っておくか、俺の名前はザックフォードだ、よろしくな」ザックフォードはそういうと同時に、白い手袋をした手で握手を求めてきた。千景は、その手を握るのを躊躇ちゅうちょした。

「用心深いのもいいことだが、俺はなにもしねえよ」と言ってザックフォードは千景の手をひったくるように握って、無理やり握手をした。

「な? なにもないだろってことでよろしくな、えっと……じゃあ次はお前の名前がなんなのか教える番だな」

 名前を教える番とか……ザックフォードに会話のペースを握られているように感じたが千景は、素直に自分の名前を名乗った。こんなところにいるんだこちらのことも少なからず知っているだろう。

「千景か、そうか……千景か……」ザックフォードは、口の中で名前の感触を確かめているようであった。そして「千景はノブナガという名前のやつを知らないか?」ザックフォードは唐突に思いもかけない名前を口にした。

「知っている」

「そうか、それは千景の味方だったのか? それとも敵だったのか?」

――歴史上の信長の事をいっているのなら敵も味方もない、俺は知らない。ゲーム内のノブナガなら明らかな敵。ただそれ以外にもノブナガなんていう名前はわりと多い気がする、漫画やドラマにも大量にでてくるし……

「ザックフォードが言うノブナガがどういうものかわからないから答えられないな」千景は思っていることを口に出した。

「そうか……なんていったらいいのかヴィネリアみたいに巨大な力を持ったやつとでもいったらいいのかそういう化物みたいなやつだと思うんだが」

「ああそれなら、敵だ、間違いなく」

「そ、そうか、なるほどな……」
「ノブナガがどうしたんだ? 何か関係があるのか?」

「いや……」ザックフォードは口ごもり、次に話すことを選んでいるようであった。そして「ちょっとな、こちらの事情ってやつだ」と歯切れが悪く続けた。

 そんなザックフォードの態度を見ると千景もあまり自分達のことを話す気にはなれなかった。ヴィネリアと共闘したことは確かだが、それだけで信頼するにはあまりにも、材料が少なすぎる。千景がザックフォードに対して知っている事実は、ヴィネリアに重い一撃を与えることが出来た。ただそれだけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...