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4章
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「まさ、どこ行ったんだ……?」
食料調達から帰ってきた新は、今までの出来事を人伝に聞き、東条とノエルの二人を探していた。
彼等は大量の日用品を支給し、更には奴等に囚われていた女性達を助け出したという。
帰り際に見た巨大な土壁と巨木は、奴等の自爆攻撃からこの場所を守る為に、ノエルが造ったのだと聞いた。
「くっ」
『友達』という言葉を用いてまで、二人を仲間に引き入れようとした自分が、酷く浅ましく思えてならない。
そもそも自分に、二人を縛る権利などなかったのだ。同じ志を持つ者というだけで、自分と同じ行動を強要したにすぎない。
友達などと言っておいて、彼等の考えを尊重していなかった。
「嶺二の言う通りだったな……」
人はそれぞれ。自分とは違う。
分かっていたつもりだったが、つもりでしかなかったようだ。今後はもっとしっかり、他人に歩み寄ろう。
そして今は只、彼に謝りたい。
その思いを胸に秘め、新は夕焼の差す敷地内をひた走った。
何処にもいない東条を探し、最後に辿り着いたのは、危ないからと誰も近寄らせていない棟。
「……」
何故かは分からないが、その一階から妙な圧を感じる。
ゆっくりと外を回り、外壁に背中を押し当て、窓の横に移動すると、
「はい。そうです。魔力を血液に見立て、全身に満遍なく満たす感じです」
『む。こうですか?』
(まさ?誰かと通話しているのか?)
東条の声ともう一人、知らない人間の声が聞こえてきた。話している内容がどうも気になり、無意識に息を潜めてしまう。
「亜門さんセンスいいですね。俺完璧にこなすまでに一週間くらいかかりましたよ?」
『そう言って貰えると嬉しいです。しかしこの、循環、ですか?これは一朝一夕で、どうにかなるモノじゃないですね。ふぅ」
「当たり前です。そんなに早く習得されちゃぁ堪ったもんじゃないですよ」
『ハハハっ、これは失敬』
(循環?習得?いったい何の話をしているんだ?)
更に詳しく聞こうと新は意識を集中させる。
しかし電話の相手が次に口にした話で、彼の全身が強張った。
『まさ殿は今、五百人規模のコロニーにいるんですよね?』
「はい」
『そこの方々には、この技術を公表していないんですか?』
「何故です?」
『皆に教え、広めれば、確実に犠牲者が減るからですよ』
(――ッ!?)
新が目を見開く。
「……私の動画を見ているなら察しが付くと思いますが、この場所のモンスターの危険度は然程高くありません。今の戦力でも充分に対処可能です。下手に力を与え、内部崩壊するよりましでしょう」
『いえ、まさ殿とノエル殿がいれば内部崩壊など起きないでしょうし、人命のために奔走するお二人が、なぜ広めないのか不思議に思いまして』
一瞬の沈黙が、教室の外まで漏れてくる。
心臓の音が、嫌にうるさい。
「…………亜門さん。下手な揺さぶりは止めにしましょう」
『……』
「人命の為に奔走するお二人?本心から思ってないことがバレバレですよ。
私の人間性を暴いたところで、大した意味なんてないでしょう?私達がどんな性格をしているかなんて、見る人が見れば一瞬で分かるんですから。
……それともこう言って欲しかったんですか?
彼等を救うことに、俺に何のメリットがある?」
(………………)
新の中で、何かが割れる音がした。
『……申し訳ありません。私の軽はずみな言動で、まさ殿の気分を害してしまいました。深く謝罪を』
「別に構いませんよ。取引相手の人格は、普通知っておきたいですからね」
『有難うございます』
「それに、国としても公表してない方が都合が良かったんじゃないですか?こんな力、国家態勢が整う前に露見すれば、国が崩壊しかねませんしね。
今の質問は、それを確認する為でもあったと推測します!どうです?」
『……私の口からはお答えできかねますが、……いやはや、あなた方は、本当に侮れない』
「褒めて頂いたと受け取っておきます」
(………………)
それからの言葉は、耳に入ってこなかった。
いつの間に降りていた夜の帳が、いつもより冷たく感じる。
綺麗なはずの夜空を見上げれば、そこには星一つ輝いていなかった。
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