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3章
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朧は若干急ぎながら地を駆けていた。
予想より長居してしまったせいで、数時間大学を空けてしまった。
半グレとの繋がりなどないとは伝えたが、勝手な行動に何か言及されるかもしれない。
まぁ、モンスターを狩っていたとでも言っておけばいいだろう。
早く鍛錬に取り組みたい。そんなことを考えながら姿を消し、大学の外壁を飛び越えようとした、
その時、
目の端に一匹のモンスターが引っかかった。
「……見た事ないな。……猿か?」
トレントの影から大学を覗く、ゴリラとテナガザルを足した様な茶褐色の生物。
数秒様子を見ていると、さっ、と奥に逃げてしまった。
「……」
朧は大して気にすることもなく、壁を飛び越えて中に戻るのだった。
§
――日も落ち、暗くなった室内。
外から差し込む薄い明かりに、東条が目を覚ました。
「ふぁ~~。……」
時刻は十九時前。
ポットでお湯を沸かし、のそのそと着替え、隣で寝るノエルを揺する。
「ほら起きろ~」
「む~」
「東京タワー行くんだろ?いい感じにライトアップされてんぞ」
「ん~。……ほんとだ」
夜の街に聳える、真赤な塔。
周りの光源が少ないのもあり、その存在感は中々の物だ。
二人は諸々用意を済ませた後、小さなリュックだけ背負い、タワーに向かって歩を進めた。
――「とうちゃーく」
「ちゃーく」
トレントがそこら中に絡まった赤い鉄骨を、真下から眺める。
「こうして見るとデカいな」
「まさも初めて?」
「ああ。別にわざわざ行くとこでもないと思ってたかんな」
高い、デカい、というだけで、あまり魅力を感じたことが無かった。
正直今も、別に惹かれるものはない。
ノエルが彼のズボンを引っ張り、急かす。
「登ろ」
「上るか」
東条がエレベーターに向かおうとすると、なぜか当然の様にノエルが背中に飛び乗った。
嫌な予感がして、肩に顎を乗せる彼女を睨む。
「何してんだ、早く上ろうぜ」
「ん。早く登ろ」
言っている事は同じなのに、決定的なまでに何かが違う。
「……マジかよお前」
彼女が何を言いたいのか理解した東条は、もう一度タワーを見上げる。
横から刺さるキラキラとした視線に負け、彼は鉄骨に手を掛けた。
――「たかー」
風に白髪を靡かせ、ノエルが夜景を楽しむ。
「たけーなこりゃ」
四肢を武装した東条も、一度片手を離し眼下を見下ろした。
高さ的には百六十mといったところか。Cellが無ければ脚が竦んでいる。
「うし」
頂上まではまだ遠い。彼は再び上を見て動き出した。
――円状に展開した漆黒に手を掛け上り、ノエルを下ろす。
「ふぅ……精神的に疲れた」
ようやく到達した、三百三十三m地点。その天辺に漆黒を乗せ、即席の展望台を作ったのだ。
後ろに手をつき座る東条は、遥か彼方を見やる。
超高層から見渡す景色は、正に圧巻。
ぽつぽつと灯る近辺に加え、安全地帯の無垢で燦然とした輝きが夜空を照らしている。
「……」
「どうだ?」
縁に立ち、遠くを見つめるノエルの横に立つ。
夜景とは人の営みを結集させたもの。モンスターである彼女が、その光に何を見るのか、自分には分からない。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
彼女の横顔を見るだけで、この場所に連れてきて良かったと思えるのだから。
「……ん。綺麗」
「そりゃ良かった」
ノエルは座り、リュックを下ろす。中からカップ麺と水筒を取り出した。
「どっちがいい?」
「シーフードで」
「じゃあノエルはカレー」
彼女は熱湯をカップ麺に注ぎ、手を翳して待つ。
「ん。ありがと」
「おう」
漆黒をローブ状にしてノエルに被せてあげた。
――「ズゾゾ」
「ズゾゾ」
「はぁ~」「はぁ~」
のほほんとした白い吐息が、ゆらゆらと天に昇る。
彼女は感慨深く麺を見てから、遠くに目を向けた。
「まさに初めて食べさせてもらったの、これだった」
「そーいやそうだったな」
あの時はまだ、ノエルには名前すらなく、箸も持てなかったのだ。
随分と懐かしく感じる。
「……うまいな」
「うまい」
「ズゾゾ」「ズゾゾ」
「はぁ~」「はぁ~」
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