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3章
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しおりを挟む――談笑しながら食事を終えた三人。
そろそろ帰ると言う朧を、二人はベッドに寝っ転がりながら見送っていた。
「じゃあ帰ります」
「ん」
「気をつけてなー」
お互いに淡白な挨拶を交わす。
朧がさっさと窓から飛び降りようとした時、
「……なぁ朧」
「はい?」
東条が彼を呼び止めた。
「俺が暇すぎて死にそうな時なら、鍛錬とか戦闘スタイル、一緒に見てやってもいいぜ」
「……どういう風の吹き回しですか?」
「いやなに、恩を売っとこうと思ってね」
一瞬訝しんだ朧だったが、予てから自分が望んでいた事だ。素直に受け入れることにした。
「じゃあ早速ですけど、俺に足りないものは何ですか?」
「単純に魔力量とスタミナだな。今のままだったら、ミノ三兄弟に殴られたら一撃でミンチにされるな」
「……何をすれば?」
「そーだな。……とりあえずこれから毎日五時間、ぶっ通しで全力の身体強化を維持し続けろ」
「……嘘だろ」
「本当。別にやってもやらなくても自由だけど、まぁできたら連絡頂戴や」
「…………分かった」
意を決したのか、そう言って朧は窓の外に姿を消した。
聞いていたノエルが驚いた様に東条を見る。
「まさ変。熱でもある?」
「ねぇよ」
それも当然。彼女の知る東条は、面倒なことを何よりも嫌う。とりわけモノを教えるなど、最も向いていないことだ。
しかし東条はそんなノエルを気にした風もなく、天井を眺める。
「ただなー、分かっちまったんだよ俺ぁ」
ずっと引っかかっていた、心の中のモヤモヤの正体。
それは、
「あいつ、俺に似てるんだわ」
鏡に映る自分自身であった。
「あれが?まさに?」
「厳密には、ノエルと出会う前の、佐藤さんや葵さん、凛さんに、紗命とも会う前の俺だな」
自分一人で全てを敵にまわしていたあの頃に、朧はそっくりなのだ。
「親近感てやつ?」
「そんなところ。何かほっとけなくなった」
「ふーん」
自分にこんな感情が湧いたことに驚きだが、言ってしまったのだからしょうがない。口に出した以上、きちんと考えてやりたい。
一人で生きると突き進んでいた自分は、かけがえのない仲間を得て、仲間の温かさを知った。
そして最後は、大切な者を失う冷たさを知った。
自分に足りなかったものは明白。
力だ。
力があれば、個だろうが群だろうが、双方に道が開ける。
朧がどちらの道に進むかは分からないが、あの時の自分を鍛えたらどうなるのか、単純に興味がわいてしまったのだ。
楽しみが一つ増えた。
東条は嘗て自分に課した鍛錬を記憶から掘り起こしながら、頬を緩めるのだった。
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