Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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3章

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 バッグから鍋とフライパン、その他諸々を取り出した後、二人してキッチンに並ぶ。

 巨大なワニ足にスパイスを練り込む朧が、中華鍋にドポドポと油を注ぐ東条を横目に見る。

(……何やってんだ、俺)

 強さを求めて遠出してきたのに、いつの間にやら弱みを握られ、今は少女の為に飯を作っている。

 本当に何をやっているのか。
 彼は無心でスパイスを掴み、肉をペチペチした。

 そんな時、

「朧はさ、何で身体強化とか、魔法の使い方仲間に教えないん?」

 沸騰を待つ東条が、椅子に座って彼を見た。

「……別に深い理由はないですね。教えたらあいつは迷わず広めるだろうし、そうしたら治安も崩れる。俺も好き勝手出来なくなる。
 そもそもあそこで過剰な戦力はいらないでしょ」

「死んでほしくない、とかないの?」

「……別にないですね。好きでも嫌いでもないし、そろそろ出ていくつもりだったんで」

「ふーん」

 朧がフライパンにオリーブオイルを垂らす。

「最初からあそこにいたの?」

「自衛隊に拾ってもらおうと渋谷から来ました。でも近づけないわ間に合わないわで、一人で生き延びてた時見つけましたね」

「じゃあ結構恩あんじゃねーの?」

「まぁ確かに強くなる為の拠点が手に入ったのはデカかったです。だから面倒臭い纏め役も引き受けたんですよ」

 朧がワニ肉をサイコロ状にカットしていく。

「モンスター狩に行った後、安全な家で休めるように利用してるってわけだ」

「そういうことですね」

「冷てー」

「あんたも似たような性格でしょ」

 朧は再度肉を揉む。

「毒島がお前のこと、血も涙もない、人間の命になんてカス程の興味もない人間だって言ってたよ」

「……あいつ」

 彼の額に青筋が浮かぶ。

「俺だって目の前に襲われてる人いたら助けますよ」

「ホントかよ」

「ホントだよ」

「勝てるか分からない相手だったら?」

「見捨てます」

「ほらー」

 ワニ肉がフライパンに落とされ良い音を立てる。

「……まさから見て、俺は強いですか?」

「強いね」

「池袋でも生きていけるくらい?」

「んだな」

「……」

「何だよ、予想通りってか?」

「はい」

「可愛くねーな」

 朧は蒸す為フライパンの蓋を閉じた。
 静かな空間に、パチパチという小さな音だけが響く。

「……まさは俺の友達なんですよね」

「そーだな」

「じゃあ戦い方教えてください」

「やだめんどくさい」

「クソが(ボソッ)」

 朧は悔しそうに手を洗う。

「何でそんなに強くなりてぇんだよ」

「……俺の指標だからです。
 モンスターが現れて、強制的に一人になって、俺は恐怖よりも開放感を感じました。
 だからまずは、強くなって一人で生き抜けるようになりたい」

「……肝が据わってらっしゃる」

 朧が蓋を開け、ひっくり返して再度蓋を閉じた。

「背中合わせられる仲間作ろうとか思わないの?」

「中途半端な仲間は足枷にしかならない。少なくともあの中に命を預けようと思える人間はいないですよ。
 まさとかノエルみたいなパートナーは希でしょ」

「……一人が一番、と」

「そうですね」

 東条は遠くを見る様な目で、朧を見つめる。

 心の内がモヤモヤする。何だろうこのモヤモヤは。恋だろうか。

 そんな事を考えていると、

「こっちはもうできますけど?」

 朧が沸騰しまくる油を顎で指す。

 完全に忘れていた、と東条は立ち上がり、エビの殻付き肉片を水でゆすぐ。

 そして、

「問題ない。これで完成するからな!」
「っ……」

 全部纏めて油にぶち込んだ。
 バチバチバチッと途轍もない音の後、プカプカと赤くなった身が浮いてくる。

「うし、」

「……素揚げは粉まぶすんですよ」

「……そんなん素揚げじゃねぇ。これが本物の素揚げだ」

「はあ」

 互いに皿に盛り、完成。

 なかなか良い感じだ。ワニのステーキなど、店で出してもいいくらいの香りを漂わせている。

 美しい盛り付けに、朧の性格が窺える。

「ノエルは食えりゃ何でも喜ぶからな」

「安い舌ですね」

「何言ってんだ、幸せな舌だよ」

 出来上がった料理を持ち、二人は腹ペコ少女の元へ向かうのだった。

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