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3章
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しおりを挟む「友達、ですか?」
東条の提案に朧は首を捻る。
「そうそう。お友達になったら、お互い何処にいるか分かっても不思議じゃないだろ?」
「え?」
「最近じゃアプリで人の位置が分かるんだ。便利なもんだよ」
「いや、え?」
「ノエル、蔦解いてくれ」
淡々と進んで行くお友達契約に、朧は既についていけていない。
拘束が解かれた彼は、言われるがままスマホを取り出し、言われるがままGPSアプリを入れさせられてしまった。
「よし、これで俺達も友達だ」
「え、あ、はい。……え?」
朧は差し出された握手に応じてようやく、自身に起きている事態を呑み込む。
目の前の男は、カオナシと呼ばれるこの男は、はなから自分を助ける気などなかったのだ。
危険と判断した存在を排除するのではなく、監視する為、勢いと諭した口調で焦る自分を誘導したのだ!
その所業、正に
「策士!策士だ!」
「何の事やら」
東条は、納得いかないとむくれるノエルをわしゃわしゃする。
「これじゃあノエル達の場所も分かっちゃう。プライベートもクソもない」
プライベートだなんだと言っていたのは誰だったか。ノエルは東条を睨む。
「大学内は別として、
無断で一㎞圏内に入らないこと。
俺達に近づく時は必ず連絡すること。
俺達の場所を他者に漏らさないこと。
これ守らせればいいだろ」
「そんなのこいつの匙加減。抜け道いくらでもある。携帯置いて自分だけ来ればバレないし」
「そこまでするか?なぁ」
「あ、ああ」
二人の会話に入れないでいた朧が頷く。
正直そこまでしてついていこうとは思わない。というかそんなことしないからこの制約を解いてほしい。彼の切実な思いだ。
「それに俺らを見てたってことは、ノエルのシャワーシーンも見てるってことだよな?」
「――っ」
朧は突然の追及にぶんぶんと首を振る。
「見てない!ちゃんと目を逸らした!」
「目を逸らすって行為はよぉ、見ちゃいけない物を見た時にするんだよ。
お前は見てんだよ、こいつの裸体をよぉお」
「み、見てない!」
「……ノエル、今のチャンネル登録者数何人だっけ?」
「五千万」
「とまぁ、俺達は日本人口の半分くらいに映像を拡散できるんだわ。勿論中には海外の人間もいるし、ぶっちゃけ殆どこいつのファンだ。
悲しいことにな」
「……(ごくっ)」
東条は朧に肩を組み、耳元で囁いた。
「ノエルが裸見られたって泣く動画を、お前の顏付きで流したら……どうなっちまうのかな?」
朧の脳内に、最悪のイメージが走馬灯の様に流れる。
新聞に載り、
ニュースで取り上げられ、
住所は特定され、
家では毎日悪戯電話が鳴り響き、
大量のピザが届く。
そしてつけられる、変態ロリコン野郎の二つ名。
彼は悟った。
二人を追ったその瞬間から既に、自分の命はこの悪魔共に握られていたのだということを。
「くぅッ、……好きにしてくれ」
「よろしい。これでいいだろ?」
崩れ落ちる朧の肩ををポンポンと叩き、ノエルに向き直った。
しかし未だ不満なのか、彼女は口を尖らせている。
「……何でそんなにこいつの肩持つ?」
「んー、そーだな。
確かにこいつの能力、危険度だけでいったら群を抜いてると思うぜ。俺達の首に届き得る数少ない生物だな」
犯罪、強盗、何でもござれ。姿が見えないというのはそれほどに恐ろしい。
「だったら」
「だからこそ、だ」
「……」
「組長の時と一緒。ヤバい奴なら仲間にしちまえばいい。
契約でも、脅しでも、相互利益の関係を築いて和平を結べばいいんだよ」
そこで、朧がおずおずと手を上げる。
「俺の利益って何ですか?」
「バラさないでやること」
「とても利益でした」
とても利益だった。
「それにこいつ、絶対大物になるぜ?
今後、必ずモンスター関連の仕事が台頭してくる。狩でも調査でも、こいつの能力ならトップクラスに有用だろ。
ここまで生き残って、そこまで強くなってんだから、モンスター殺すのに躊躇いないだろうし。
どうよ?」
「確かに、そんな仕事が出来たらぜひやりたいですね」
「いいね。思ってたのと違って結構話せるし、人間的に面倒臭そうな部類でもない。
ここで仲良くなっとけば、後々金になると思うぜ」
「……先行投資」
「そゆこと」
ノエルは一度朧を見て、納得した風に頷いた。
「ん。いい考え。まさにしては上出来」
「そりゃどーも」
彼女は朧を葉っぱでぺシぺシ叩きながら、ドスの効いた声で見下ろす。
「今のところは殺さないでやる。
強くなれ。有名になれ。金を生め。何かしたらお前の性癖をバラすからな」
「っお、俺は断じてロリ「黙れ」――っ」
「返事は『はい』か『イエス』だけだ」
「……はい」
「よろしい」
突如起きた騒ぎも一段落し、東条は再度ベッドに倒れ込む。
朧はこれからどうすればいいのかあたふたし、
寝っ転がるノエルの腹が鳴った。
「まさ。お腹減った」
「あ?勝手に食えよ」
「……まさいつもノエルの裸「よぉし分かった何が食いたい!!さっきのエビとワニの足でいいな!?いい!!そうしよう!!」……早めにね」
「任せろ!!行くぞ朧!飯だ!」
「俺もですか?」
「当たり前だ!!ついて来いっ」
「……はぁ」
奥のキッチンにズンズンと歩いていく東条に、朧は呆れながらもついていった。
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