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3章
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遠方で繰り広げられる蹂躙を、彼は内心興奮しながら見ていた。
(あんなもん、あの人達に渡しちゃダメでしょ)
只でさえヤバい二人が、現代兵器という分かりやすい危険を手に入れてしまった。
皇居で拾った武器を使っていることはあったが、動画のコンプラ的に大丈夫なのだろうか?そんなこと気にし無さそうではあるが。
(絶対藜組から買ったよな。……俺も欲しくなってきたな。……でも金ないな)
二人に触発され、武器類の魅力に引き付けられる彼であった。
§
――三十分後。
「……終わったか」
「ん。満足」
赤い殻とぷりぷりの肉片が散乱する、毒々しい程青くなった一帯。
ライフルを運ぶスベスベサンショウウオを除いて、そこに生存を許された生物はいない。
夥しい数の屍の上に立つ二人は、頬についた返り血を煩わし気に拭った。
「殺ったね~」
「疲れた」
改めて辺りを見てみれば、広がっているのは正に虐殺の跡だ。
少々殺りすぎた感が否めない。
「六十四。まさは?」
「負けた~っ。五十八」
「よしゃ」
勝負はノエルの勝利。
ライフルは貫通力が高いが、頭部付近を粉砕しないと生命活動を停止しないザリガニ相手には、分が悪かった。
「……お、ありがとな」
「ヌムィ~」
ズボンを引っ張られて下を向けば、可愛い彼等がライフルを持ってきてくれていた。
受け取るとすぐに散開し、そこらに散らばるザリガニを食べ始める。相当お腹が空いていたらしい。
「先ホテル行かね?シャワー浴びてぇ」
「ん。海鮮臭い」
自分の臭いを嗅いで顔を顰める東条とノエルは、荷物を纏め再び歩き出した。
そんな二人の足に彼等が密集し、ヌムヌムと身体を擦り付ける。まるで別れを惜しむ様に。
「おーよしよし、お肌スベスベだなお前ら」
「ぷにぷに、ぷにぷに」
二人にとっては遊び半分、只の気紛れでも、彼等にとっては正真正銘の救世主なのだ。
今日という日を、彼等は忘れないであろう。
「ヌムゥウ」「ヌミィウ」「ヌゥゥゥ」「ヌゥ~ヌムヌム」――
「じゃーなー死ぬなよ~」
「なよー」
一通り撫で終わった後、立ち上がった彼等に見送られ、東条は悠々とホテルを目指すのであった。
――ホテルに到着し、使われた痕跡のない空き部屋に荷物を置く。
拾ったザリガニの肉片とワニの足を冷凍庫に入れた後、ノエルはそこで、東条は別の部屋でシャワーを浴びた。
時刻は昼の三時。
ライトアップされたままの東京タワーも目の前に見える。
焦る必要もない。
ふわふわのバスローブに身を包んだ二人は、洗濯機を回し、テレビをつけ、缶ジュースを手にベッドに座り、一時の休憩をとる。
「さっきのビデオ撮ってたん?」
「もち」
「鬼映えだろ」
「ん」
ノエルがキーボードを弾く音、
今にも壊れそうな洗濯機の稼働音、
垂れ流されるテレビの音、
ボーっとする中、無機質な音が心地いい。
「あいつ等の名前決めた?」
「ワニがランナー」
「めっちゃ走ってたもんな」
「ザリガニはテナガエビザリガニ」
「そのままだな」
「サンショウウオはヌムヌム」
「ヌムヌム言ってたしな」
安直ながらもしっくりくる。
……東条はそのまま枕に頭を預け、少し休もうと目を閉じた。
ノエルはパソコンを閉じ、スマホを弄り出す。
数秒後、東条のスマホに一件のメールが届く。
気怠げに手を伸ばし、メールを開くと、
『そのまま読んで。ノエル達を見てる奴がいる』
彼の眠気は秒で飛んだ。
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