172 / 218
3章
6
しおりを挟む「バラルァ!」
「ッぶねっ」
鞭打つ尻尾を屈んで躱し、低姿勢で突貫。
振り抜かれる前足に手を掛け、飛び上がった。
瞬間、
「――ッ」
瞬きの間に首を持ち上げたワニが、大きく口を開き左右から顎を閉じた。
一本一本が鋸状の鋭利な歯は、触れただけでも肉を削ぎ落す。加えて魔力を纏うそれは、生半可な身体強化では豆腐の様に切り裂かれてしまうだろう。
「何だよ、強ぇのもいんじゃねぇか」
両腕を開き押し止める東条が、この地一帯にそぐわない殺傷力の高さに乾いた笑いを浮かべる。
衝撃波を放ち脱出を試みようとした途端、今度は景色が逆転した。
「なっ、お!?」
「バラララララッ!!」
道路が剥げ、近隣のガラスが砕け散り、建物が吹き飛ぶ。
ワニ特有の絶技。自らの身体を高速で回転させ、肉を食い千切って殺す、デスロールと呼ばれる技だ。
只でさえ強力無比なこの技を、モンスターの力で行えば、それは最早災害である。
一分間ワニが暴れ転がった跡には瓦礫すら残らず、ただ汚れた水が揺れるだけであった。
「バフシュルルル」
ワニは荒く鼻息を立て、ズタズタになったであろう口に挟まった獲物を咀嚼しようとする。
しかし、顎が動かない。
開くことが出来ない。
焦り頭を振っている途中、聞こえてくる笑い声にビクリ、と固まった。
「いや~ビシャビシャになるとこだった」
水に叩きつけられる寸前で全身武装した東条は、首を鳴らし、再度腕と脚に漆黒を集結させる。
「おぅおぅ暴れんな」
「バっ!?」
東条は一番太い牙を引っ掴み、ワニを強引に上に持ち上げた。
重量差が逆になり、彼が地に落ちると同時にワニの半身が持ち上がる。
「今度はぁ、俺の番ッ!!」
天に向けて伸ばした両腕を、思いっ切り振り下ろす。
轟音と共に水が割れ、衝撃のあまりワニの鱗に罅が入った。
「まだまだァッ!!ハハハハハッ――」
身動きの取れない敵を、滅茶苦茶に振り回し、叩きつける。
撒き散らされる破壊の痕跡は、デスロールの比ではない。
衝撃に耐え切れなくなり、ビルが一つ倒壊した。
全身の鱗が砕け血が吹き出すのを確認し、
「オウルァッ!!」
「バファっ」
最後に民家にぶん投げ生き埋めにした。
濛々と立つ土埃を背に、東条は腕を回しノエルにピースする。
「どうだ!いい絵撮れたろ!」
「最高!」
ニパっ、といい笑顔で笑い合い、ノエルを回収しに行こうと脚に力を込めた。その時、
「バララァアッッ!!」
満身創痍のワニが最後の力を振り絞り、豪速で東条に飛び掛かり顎で挟んだ。
しかし東条は身体を捻ろうとするワニの牙を瞬時に掴み、
「ふんッ!!」
回転と同時に逆方向にぶん回す。
結果は明白。
自重と馬鹿力に挟まれたワニの首は、悲鳴ともとれぬ音を上げ千切れ飛んだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる