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3章
4
しおりを挟む教室を後にした二人は、リュックと洗濯機を回収し、周辺の全景を眺める為屋上の扉を開いた。
朝から色々な事があって疲れた身体を伸ばす。
仄かに潮の香りがする空気を肺いっぱいに溜め、思いっきり吐き出した。
「うまい!」
「うまい!」
排気ガスから解放された大気イオンは、身体に纏わりつくいらない物から東条を解放してくれる。
「ふぅ~。さて、何処行く」
「東京タワーー」
遠くに聳える赤い塔を、ノエルがビシっ、と指さす。
「距離は……三㎞くらいか。だらだら歩いても余裕だな」
スマホを弄る東条は、ついでに近くに良いホテルが無いか検索をかけた。
流石首都、高級ホテルがそこら中にある。全て無人だが。
「おし、ホテルはザ・プリンスパークタワーだ。俺らに相応しい」
「うしゃ」
目的地も決まり、準備体操の屈伸をしていた。その時、
「お、まだ行ってなかったね」
「?馬場さん、どうしたんすか」
屋上のドアを押して馬場が姿を現した。
「何、一つ依頼をしようと思ってね」
「……何です?」
「明日また顔を出すんだろ?」
「はい」
そう言う東条に、一枚の丸められた地図が投げ渡される。
「これは?」
「ここ近辺で、強力なモンスターがいて私達が近づけなかった場所が書いてある。
今日その付近を通るなら、近くの食料を持ってきてほしいんだよ」
地図を開いてみれば、所々にモンスターの絵が描いてある。これから向かおうとしていた東京タワーまでの道中にも、二匹。
「それで、俺達は何を得られるんですか?」
その言葉を聞いた馬場は色っぽく笑い、東条の前で腰を折り、胸元を指で引っ張った。
「私の体を好きにしていいよ」
「ぐぅっ!!」
「おい……」
前のめりになる東条に、ノエルがジト目になる。
似た様な前例がつい最近あった。この先の結果など目に見えている。
しかし彼の次の一言は、意外にもノエルの予想に反したものであった。
「ぅう……魅力的な条件だけど、断らせてもらいますぅ。くっ」
「あら」
血涙を流し、抗い難い自身の欲求を精神で抑え付ける。
その姿を見た馬場も、当てが外れたか、と一歩引いた。
「……俺は好きになった女と、あと今は、そーゆー事を商売にしてる女と以外寝ないって、決めてるんです。だから」
「そうかい。いいと思うよ、線引きは大事だ。……でも困ったね。これ以外私が出せるもんなんてないよ」
どうしたものかと考えている馬場の一部分を、東条の目が射抜いた。
「揉ませて下さい」
「へ?」
「揉みしだかせて下さい」
「……これかい?」
自分の胸を指さす馬場に、彼が頷く。
「ハハハっ、そんなに良い物持ってないけど、そんなんでいいなら全然構わないよ」
「感謝」
「てか胸を揉むのはありなのね」
「セーフです」
よく分からない線引きに爆笑する馬場に、結局こうなるか、と呆れるノエル。何故か恭しく膝立ちする東条。
「ノエルは手伝わない」
「何故だ。揉みたくはないのか?」
「まったく」
「はぁ、食わず嫌いは良くないな。大人の女性を知っておくのも、一つの経験だと思うんだ。冒険に、深いも浅いもないだろう?」
「何言ってんだいあんたは」
綺麗な顔で意味の分からない理詰めをする東条に、馬場は突っ込み、当のノエルは顎に手を当て考える。
(確かにノエルは大人の胸を知らない。知らないで否定するのはナンセンス。もしかしたら、まさがあれだけ執着する理由が分かるかもしれない……)
彼女は冒険や経験といった言葉に弱かった。
「……分かった。ノエルも引き受ける」
「えぇ……」
「それでこそ俺の相棒だ」
斯くして契約は成ったのだった。
立ち上がった東条はノエルを背負い、苦笑する馬場に振り返った。
「何で馬場さんそんな体張るんすか?子供達の食事は、何だかんだ足りてるでしょ?」
「別に体一つ、安くはないけど減るもんじゃないしね。それに、今回は子供達ってより新の為だね」
彼女は煙草に火をつけ、空に煙を撒いた。
「あいつは人の事を考えすぎる。多分今回カオナシがいなくなったことで、数週間は塞ぎ込むだろうね。
だから明日貰う食料は、カオナシとノエルが自発的に持ってきた物にする。そうすりゃあいつも幾分かマシになんだろ」
「なるほど」
「言っても私等の頭だからね。潰れてもらっちゃ困るんだよ」
能力、人格は優秀だが、性格に少しの癖がある。
それが美徳に感じるか、欠点に感じるかは、馬場と東条が違う様に人それぞれなのだろう。
東条はノエルを背負い直し、今度こそ脚に力を込めた。
「それじゃ馬場さん、また明日」
「ああ。……ただ、
私はあんたになら抱かれてもいいって思ったから、この提案をしたんだぜ?」
その言葉を聞き東条の口角が上がる、と同時に漆黒が脚を包み、助走。
隣の崩れた建物に飛び移った瞬間、約束された勝利のおっぱいの力が、瓦礫を粉々にし大跳躍を果たした。
「ひぃやっほぉぉぉぉーー!!」
木霊するどこまでも純粋に欲に塗れた雄叫びが、大学中に響くのであった。
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