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3章
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しおりを挟む「こんな所で何をしてたんだ?」
「あ?何もしてねぇよ。テメエ等こそ何の用だ?」
新にガンを飛ばす毒島を、嶺二が押しのけお返しとばかりにガンを飛ばす。
どれだけ仲が悪いのか、全面的に毒島に原因があるのは明白なのだが。
「まさに用があってね。君達が連れて行ったと聞いたから探していたんだよ」
「俺?」
「ああ」
今日は色んな奴に話しかけられる。そろそろ疲れてきたから開放してほしいというのが本音なのだが。
「時間貰ってもいいかい?」
「別にいいけど」
「それじゃあ移動しよう」
毒島とその部下にガンを飛ばされながら教室を出ていく二人に、東条とノエルもついていく。
その去り際、ニヤリと笑う毒島が東条の背中に囁いた。
「明日、昼頃ここで(ボソッ)」
「お、おう」
無駄に含みのある言い方。行動一つ一つが悪役なんだよな~、と思わずにはいられない東条であった。
――ノエルの蹴る石がコロコロと廊下を反響する。
「彼が何か迷惑をかけなかったかい?」
「いや別に?」
安心したように溜息を吐く新から、日頃から毒島一派に手を焼いている彼の姿が窺える。
「彼の素行不良には悩まされていてね。暴力で全部解決するし、夜な夜な女性を部屋に連れ込んでるみたいだし、上げたらキリがないよ。
……性事情はまぁ分かるから、合意の限り何も言わないけどさ」
「何であいつが俺達の言う事聞いてんのか、不思議なくらいだぜ」
「ははっ」
そんな彼等の愚痴に付き合っている内に、目的地に到着する。
東条が教室に入ると、既に中には三人が集まっていた。
「あっ、おはようございますノエルちゃん!まささんっ」
「おはー」「おはー」
小走りで向かって来る胡桃がノエルに抱き着こうとし、手を払われた。
「よう」
「おざっす」
手を上げる馬場に、手を上げて返事する。
そして、
「……(ペコ)」
「(ペコ)」
例の朧君と簡単に会釈を交わす。
東条とノエルが適当に座ると、壇上に立った新が此方を見て話し始めた。
「ここにいる五人が主に全体を纏めてる人間だ。四人はもう面識あると思うけど、正宗、君は初めてだろ?」
「え、ああ」
いきなり振られた朧が驚いて顔を上げる。
「一応挨拶しといてくれ」
新の強引な友達作りに、気まずい視線が交差した。
「……(ペコ)」
「(ペコ)」
本日二度目の会釈。
「よし。単刀直入に言うけど、今日の集会にまさを呼んだのには理由があるんだ」
「はぁ」
再び自分に向けられる綺麗な視線に、東条は気の抜けた返事をする。
「まさには、まだ俺達が行っていない場所だったり、危険な生物がいて近づけなかった場所に、俺達を連れて行ってほしいんだ。
食料調達は、これからは最低でも青山まで足を運ばなくちゃいけなくなる。危険も今まで以上に増す。まさがついてきてくれればっ、物凄く心強いん
「え、嫌だけど」
……え?」
断わられると思っていなかったのか、新は口を開けて放心している。胡桃も似たようなものだ。
「そもそも俺今日ここ出てくぜ?」
「そ、そんな」
既に新は二人を含めた上で計画を立てていた。
東条の性格を間違った方向に解釈したが故の、失策。
新は慌てて壇上から降り、東条に近寄る。
「何で……そんな早く」
「何でって、俺がここに留まる理由がないだろ。あぁ、最低でもあと一日は顔を出すけど、今日は近くの高級ホテル行くし。な?」
「ん」
二人のこれからの予定は、周辺を探索しホテルに泊まり、明日毒島に会ってから探検に出発する。
こんなところだ。
二人の中では、既にこの場所との関係性は終わっている。
しかし、彼等の内心など知らない新と胡桃は、その唐突な事実を容易に受け入れることなどできない。
「……ノエルちゃん、もうお別れなんですか?」
胡桃が目尻に涙を浮かべ、ぎゅっと両手を握る。
「ん。楽しかった」
「っ外には危険が沢山なんですよ?ノエルちゃんなんて、パクって食べられちゃうかもしれないんですよ?」
「問題ない。まさがいる」
「……うぅ」
思い切ってノエルを不安がらせようとした胡桃だったが、パートナーとの強い絆を見せつけられるだけに終わった。
逆に東条はノエルの言葉に感動する。
(そんなに俺を信じてくれてるのか(しみじみ)
が、
「いざとなったらまさを囮にして逃げる」
「おい」
「……ふふっ、それは酷いです。グスっ」
結局いつものノエルだった。
お別れの空気が濃くなる中、最後に新が声を絞り出す。
「……まだ、沢山の人が助けを求めている」
「そうだな」
「まさも他人の為に動ける人間じゃないか」
「見方によってはな」
「……俺が、俺達が造ったこの場所を、凄いと言ってくれたじゃないか!」
新は昨夜の事を思い出す。
東条が自分に言ってくれた言葉は、確かな重みと温かさを持っていた。
あの言葉が嘘ではないと、自身の心が分かっている。
だからこそ理解できないのだ。
自分と違う行動をとろうとする、東条という男が。
「ああ凄いぜ?でもだからって、俺がお前等に力を貸す道理はねぇだろ。んじゃな」
「……っ」
躊躇いなく背中を向ける二人に、新は、命令でも、依頼でもなく、ただ、懇願した。
「……友の頼みでも、ダメか?」
「ダメだな」
間髪入れずに返ってくる、ドライな現実。
「……そうか」
「じゃな」
「ああ」
扉を潜っていく彼等を悲し気に見送る新の肩に、嶺二は慰める様に手を置いた。
「……前に言ったろ。誰だって考えてるこたぁ違うんだよ」
「……ああ」
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