Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

文字の大きさ
上 下
169 / 218
3章

3

しおりを挟む
 
「こんな所で何をしてたんだ?」

「あ?何もしてねぇよ。テメエ等こそ何の用だ?」

 新にガンを飛ばす毒島を、嶺二が押しのけお返しとばかりにガンを飛ばす。

 どれだけ仲が悪いのか、全面的に毒島に原因があるのは明白なのだが。

「まさに用があってね。君達が連れて行ったと聞いたから探していたんだよ」

「俺?」

「ああ」

 今日は色んな奴に話しかけられる。そろそろ疲れてきたから開放してほしいというのが本音なのだが。

「時間貰ってもいいかい?」

「別にいいけど」

「それじゃあ移動しよう」

 毒島とその部下にガンを飛ばされながら教室を出ていく二人に、東条とノエルもついていく。

 その去り際、ニヤリと笑う毒島が東条の背中に囁いた。

「明日、昼頃ここで(ボソッ)」

「お、おう」

 無駄に含みのある言い方。行動一つ一つが悪役なんだよな~、と思わずにはいられない東条であった。



 ――ノエルの蹴る石がコロコロと廊下を反響する。

「彼が何か迷惑をかけなかったかい?」

「いや別に?」

 安心したように溜息を吐く新から、日頃から毒島一派に手を焼いている彼の姿が窺える。

「彼の素行不良には悩まされていてね。暴力で全部解決するし、夜な夜な女性を部屋に連れ込んでるみたいだし、上げたらキリがないよ。
 ……性事情はまぁ分かるから、合意の限り何も言わないけどさ」

「何であいつが俺達の言う事聞いてんのか、不思議なくらいだぜ」

「ははっ」

 そんな彼等の愚痴に付き合っている内に、目的地に到着する。

 東条が教室に入ると、既に中には三人が集まっていた。

「あっ、おはようございますノエルちゃん!まささんっ」

「おはー」「おはー」

 小走りで向かって来る胡桃がノエルに抱き着こうとし、手を払われた。

「よう」

「おざっす」

 手を上げる馬場に、手を上げて返事する。

 そして、

「……(ペコ)」

「(ペコ)」

 例の朧君と簡単に会釈を交わす。

 東条とノエルが適当に座ると、壇上に立った新が此方を見て話し始めた。

「ここにいる五人が主に全体を纏めてる人間だ。四人はもう面識あると思うけど、正宗、君は初めてだろ?」

「え、ああ」

 いきなり振られた朧が驚いて顔を上げる。

「一応挨拶しといてくれ」

 新の強引な友達作りに、気まずい視線が交差した。

「……(ペコ)」

「(ペコ)」

 本日二度目の会釈。

「よし。単刀直入に言うけど、今日の集会にまさを呼んだのには理由があるんだ」

「はぁ」

 再び自分に向けられる綺麗な視線に、東条は気の抜けた返事をする。

「まさには、まだ俺達が行っていない場所だったり、危険な生物がいて近づけなかった場所に、俺達を連れて行ってほしいんだ。
 食料調達は、これからは最低でも青山まで足を運ばなくちゃいけなくなる。危険も今まで以上に増す。まさがついてきてくれればっ、物凄く心強いん


「え、嫌だけど」


 ……え?」

 断わられると思っていなかったのか、新は口を開けて放心している。胡桃も似たようなものだ。

「そもそも俺今日ここ出てくぜ?」

「そ、そんな」

 既に新は二人を含めた上で計画を立てていた。

 東条の性格を間違った方向に解釈したが故の、失策。

 新は慌てて壇上から降り、東条に近寄る。

「何で……そんな早く」

「何でって、俺がここに留まる理由がないだろ。あぁ、最低でもあと一日は顔を出すけど、今日は近くの高級ホテル行くし。な?」

「ん」

 二人のこれからの予定は、周辺を探索しホテルに泊まり、明日毒島に会ってから探検に出発する。

 こんなところだ。
 二人の中では、既にこの場所との関係性は終わっている。

 しかし、彼等の内心など知らない新と胡桃は、その唐突な事実を容易に受け入れることなどできない。

「……ノエルちゃん、もうお別れなんですか?」

 胡桃が目尻に涙を浮かべ、ぎゅっと両手を握る。

「ん。楽しかった」

「っ外には危険が沢山なんですよ?ノエルちゃんなんて、パクって食べられちゃうかもしれないんですよ?」

「問題ない。まさがいる」

「……うぅ」

 思い切ってノエルを不安がらせようとした胡桃だったが、パートナーとの強い絆を見せつけられるだけに終わった。

 逆に東条はノエルの言葉に感動する。

(そんなに俺を信じてくれてるのか(しみじみ)

 が、

「いざとなったらまさを囮にして逃げる」

「おい」

「……ふふっ、それは酷いです。グスっ」

 結局いつものノエルだった。

 お別れの空気が濃くなる中、最後に新が声を絞り出す。

「……まだ、沢山の人が助けを求めている」

「そうだな」

「まさも他人の為に動ける人間じゃないか」

「見方によってはな」

「……俺が、俺達が造ったこの場所を、凄いと言ってくれたじゃないか!」

 新は昨夜の事を思い出す。

 東条が自分に言ってくれた言葉は、確かな重みと温かさを持っていた。
 あの言葉が嘘ではないと、自身の心が分かっている。

 だからこそ理解できないのだ。
 自分と違う行動をとろうとする、東条という男が。

「ああ凄いぜ?でもだからって、俺がお前等に力を貸す道理はねぇだろ。んじゃな」

「……っ」

 躊躇いなく背中を向ける二人に、新は、命令でも、依頼でもなく、ただ、懇願した。

「……友の頼みでも、ダメか?」

「ダメだな」

 間髪入れずに返ってくる、ドライな現実。

「……そうか」

「じゃな」

「ああ」

 扉を潜っていく彼等を悲し気に見送る新の肩に、嶺二は慰める様に手を置いた。

「……前に言ったろ。誰だって考えてるこたぁ違うんだよ」

「……ああ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...