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2章

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 何度目かの新の炎が大きめの爬虫類を焼き尽くし、嶺二の風を纏ったバットが小動物を叩き潰した。

 現在地はあれから一・五㎞程進んで、大学まで残り約半分という所。

 東条は綿あめの形が崩れない様に注意を払いながら、道中目にした光景を纏めていた。

 まず一番驚いたのは、南に行くにつれ生態系が急激に変化していたことだ。

 自分達がいた北側に比べ、樹型トレントの数も少なく、小さい。
 反対に苔型や草型など、足元にわさわさしたものが多い。

 これはノエルによると、モンスターは強い個体ほど豊潤な魔力を持っていて、死体にもそれは言える。
 故にスカベンジャーの中でも大きい個体であるトレントは、より強い個体が多い場所に密集する性質があるのでは?とのことだ。

 モンスターを殺して食っていた彼女の言葉だ。信用できる。

 そうしてそこから導き出せることは……、

 前方から何かが蒸発した音が響く。
 東条が顔を向ければ、そこには部分的に溶解した大きな鼠と、手をつき出す新が立っていた。

 因みに新は、炎と光の属性を操るダブルだ。希少なダブルという特性だけでなく、『光』という初めて見る属性に心底興奮した。

 原理はよく分からないが、周囲の光を収束しているらしいし『光』で合っていると思う。

 嶺二は風をバット纏って戦う戦闘スタイル。高速回転させて敵を切り刻んだり、風の塊を飛ばしたりと、案外器用らしい。
 似たような事をする豚をどこかで見た気がする。

 姫野さんだが、彼女のcellを聞かされた時はその万能性に驚いた。
 俗に言うアイテムボックス。
 トラックに轢かれる奴らが総じて持っている便利能力だ。

 加えて土魔法も使えるといったもんだから、コロニー維持には姫野さんの存在が不可欠なのが窺える。

 そんな彼女は生物を傷つけることが出来ないため、今も自分とノエルの横で戦う彼等を見ている。

 甘いとも思うが、補助として充分すぎる仕事をしているし、まぁ良いのではなかろうか。可愛いし。

 話を戻すが、トレントの規模や大きさから言えること。

 それは、皇居を境として、南と北ではモンスターの強さが異次元に違うという事だ。

 東条は先ほど丸焼きにされたデカい鼠を見下ろす。

 自分にとっては、今やいてもいなくても変わらないような存在が、この場所では『敵』として認知されているのだ。

 聞けばこの鼠でさえ、食物連鎖の中位にいるレベルらしい。ワニや大蛇とかの類もいるらしいが、強さの程度など底が知れている。

 そりゃあ身体強化を習得しなくても生き残れるわけだ。
 加えて運の良い事に、彼等は過剰な程の戦闘力を有している。

 自分に言わせれば、旧快人チームの方がよっぽど命がけのサバイバルをしてるってもんだ。

 三人は自分の動画で人型モンスターの存在を知り、その強さと悍ましさに震えたと言う。先ずそこからなのだ。

「そろそろ奴等が寝床にしている近くを通ります。気を付けて下さい」

「「うぃー」」

 だから人間同士で争うなんて暇なことが出来るのだろう。これに至っては新達に同情するが、やはりそれよりも前に呆れが来てしまう。



 ……しかしそんな感情も、目の前に広がる退廃的で神秘的な光景に呑まれてしまう。



「おぉ、こりゃスゲェな」

「ん。なかなか綺麗」

 水に浸った、人工物と草花。

 森に呑まれたビル群を旅してきた彼等にとって、その光景はまた新鮮で心惹かれるものであった。

 興奮したノエルが裸足になり、インナーをたくし上げ水に入る。
 水深は彼女の脛上程度、冷たさに慣れるとバシャバシャと魚を追いかけ始めた。

「ノエルさん!危ないモンスターもいるんですから!気を付けて下さい!」

「あははは。ちべた」

 ノエル以外は水面から顔を出す瓦礫や丘を伝って先に進む。

 その途中、

「ん?しょっぱい」

「え、……ってことは、海水かこれ」

 東条が驚きに目を丸くする。

 確かに、これほどの水量が留まるなど普通ではない。ここより南は、海面上昇など何らかの作用により浸水している確率が高い。

(何だ?氷山でも溶けたか?)

 一夜で日本中に木が生えたのだから、それくらい有り得そうだが……。

 考えてみて、

「……ま、どうでもいいか」

 この世界でそんな気にすることでもなかった。

 木も多くなって二酸化炭素削減にも繋がるだろうし、プラマイゼロだ。こいつ等が光合成を行っているかは知らないが。

「まさ見て!捕まえた!」

 ビチビチと藻掻く、見たことのない変な魚を鷲掴みにするノエルに苦笑する。

「食ってみっか」

「食う!」

「「「……えぇ」」」

 二パっ、と互いに笑い合う二人であった。

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