Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

文字の大きさ
上 下
157 / 218
2章

10

しおりを挟む
 

「あ、人。わぷっ」

「はい俺の勝ちっ。あ?ほんとだ」

 空中でノエルを袋に詰めた東条は、吹き抜けを飛び越え、そのまま三階の手すりにへばりつく。

 眼下には、目を丸くして此方を見上げる三人の男女がいた。

(んー。……あれ?身体強化してないのかあいつら)

 身体強化を使う者に対しては、全身を覆う様な凝縮した魔力の気配を感じ取れる。

 今まで会って会話してきた人は皆鎧を着ていたが、彼等のそれは例えるならTシャツだ。
 魔力を帯びていないゴブリンの一撃ですら危うい。

(魔力量は多いのに、勿体ない)

 バットと女もそれなりに多いが、何より先頭のクソったれイケメンが突出している。

 キュクロプスや紅には届かないまでも、快人よりあるのではなかろうか?

 しかしまあ、そもそも身体強化自体常識というわけではない。

 ヤクザ三人組の様に勘で出来る者もいれば、自分や快人の様にロマンから到達する者もいる。
 彼等にはその両方が無かったというだけだ。

 そんなことを考えながら三人を見定めていると、

「一度下りてきてくれないかっ?話がしたい!」

 クソったれイケメンが声を張り上げた。

 別に断る理由はないし、とジャンプして彼等の前に降り立つ。

 目を丸くして驚愕する三人に、ちょっぴり優越感が湧き上がってしまう。

「初めまして。まさと言います」

「これは丁寧に、俺は新と言います。
 単刀直入に言いますが、その袋に入った少女を開放していただきたい」

「……?」

 よく見れば、クソったれイケメンの新の顔は怒りと警戒に尖っている。
 後ろの二人も似たようなもの。

 東条は何故かと考えるも、すぐに思い至った。
 あの一部始終を見ていれば、女児誘拐犯と間違われても仕方ない。

「ああ大丈夫ですよ。こいつ俺の相棒なんで」

「……信じられるわけがないだろう」

「えぇ……」

 説得を試みるも、返ってきたのは不審者への拒絶。
 もしや面倒臭いタイプの人間か?と眉間に皺が寄るも、

「そんな格好で女子を追いかける奴が、まともなはずがないっ!」

「……忘れてた」

 次の言葉で全てを理解した。

 前言撤回、この男は正常だ。まともな価値観を持っている。

「返す言葉も無いわ。おいノエル、お前もそろそろ出てこい。このままじゃ逮捕されちまう」

 自分での説明を諦めた東条は、袋の中で今の状況を楽しんでいる彼女に助けを求める。

 すると、もぞもぞと袋が蠢き、

「ぷはっ」

 首とカメラだけの奇怪な生物が顔を出した。

「問題ない。ノエルはこの変態の相棒。鬼ごっこしてた。カメラ撮って良い?」

「え、あぁ、カメラ?……いいけど、え?」

 怒涛の説明と質問に、新も何とか食いつく。
 そこで何かを思い出したのか、ふ、と彼の目が二人を交互に見た。

「……ノエルに白髪に、カメラって、まさか」

「配信者のお二方ですか!?こんな所でお会いできるなんて」

「ってことはあんたカオナシさんか?そんな趣味だったのか」

 三人同時に驚きの声を上げる。
 彼等のコロニーの中でも、二人の動画は多くの者が見ていたのだ。

「ん?ちょい待て。これはこいつに着せられたんだ。断じて俺の趣味じゃない」

「あ、ああ。分かった」

 そこだけは何としても理解してもらわなければ。今後の尊厳に関わる。

 迫る髭面に、流石の嶺二もたじろいだ。

「あとカオナシさんって何だ?俺の事か?」

 初めて聞く名前に疑問が浮かぶが、そこはノエルが説明してくれた。

「まさいつも顔隠してるから、カオナシさんって呼ばれてる」

「あーなるほど。……結構いいじゃん」

 アーアー言いながら手から金塊を出すことはできないが、呼びやすいし親しみやすいあだ名だと思う。

「すみませんでした。先程は失礼なことをいってしまいました」

 頭を下げる新に、東条は笑って手を振る。

「いやいや止めて下さい。悪いの確実にこっちですから、視聴者に叩かれてしまいます」

「そう言って貰えると助かります」

 甘いマスクで許しを請う美丈夫。照れ笑いもイケメンだなー、と無心に思う東条であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...