155 / 218
2章
8
しおりを挟む§
「胡桃、あとどれくらいいける?」
「これで半分くらいですから、あとコンビニ三軒ほどです」
そう言う彼女が集められた物資に触れると、その場にあった全てが徐々に消えていった。
今いる店の商品を包み終えた彼女は、まだ容量には余裕があると立ち上がる。
姫野 胡桃 birther 『抱擁』
彼女は異空間に、現実からは不可侵の空きを作ることが出来る。
容量は凡そコンビニの商品六軒分。
生物、非生物問わず包み込むことが可能だが、生物の場合少しの反抗で飛び出してしまう。
人助けという難題を慣行できているのも、彼女の力があるからこそなのだ。
「分かった。早めに次に進もう」
新は警戒に当たっていた嶺二を呼び戻し、再び外に出た。
――静まり返る欅並木に、三人ともいささかかの違和感を覚える。
「……ここらへんよ、モンスター少なくねぇか?木も多いしよ」
嶺二がバットをコツコツと肩に当て、周りを見渡す。
ここに来るまではそれなりに襲ってきたモンスターも、表参道を少し進むとピタリと姿を現さなくなった。
拠点から離れるにつれ人の街の面影が薄れていくのも、彼等にとっては薄気味悪かった。
「自然にできたセーフティスポットかもしれない」
(……本当にそうか?)
希望を見出す新とは反対に嶺二は訝しむが、考えても分からない、と次の目的地に歩を進める。
その時、
「……ん?」
常人より基礎能力の高い新の聴覚が、微かな音を拾った。
「どうしました?」「なんだ?」
集中する新を見て、二人の身体に力が入る。
「……笑い声、か?」
確かに聞こえる。遠くに響く、何かの破壊音と、狂笑。
「人がいるかもしれない」
「おいおい、少しは警戒しろ」
「もしいるのなら助けなくてはっ」
そちらに向かって躊躇いなく歩き出す新に、慌てて二人もついていく。
速足で駆け、木々を縫い、車を飛び越え、立ち止まった先にあったのは、
「表参道ヒルズ」
「……聞こえるか?」
「流石にな」
中から時折聞こえてくる、物を壊すような音と男の笑い声。
新は冷静に考えていた。
一つ。人の声を真似るモンスターがいるとして、そのモンスターと争っている以上、片方は人の可能性が高い。
二つ。モンスターを殺しながら笑う人間がいるとしても、同様に手助けすべき人。
そして三つ。ここから東に直進した位置には、藜組が根城としている場所がある。ヤクザの人間ならば、人をいたぶり笑う奴がいてもおかしくない。
自分は世界が変わった後、そういう光景を沢山見てきたのだから。
「行こう。人がいるのは間違いない」
新は腕に光の球を浮かべ、扉を押し開けた。
イルミネーションで飾られた七色のクリスマスツリーが立つ、デパート内の大通り。
上を見上げれば吹き抜けになっており、各階の断面が見て取れる。
中に入れば分かる。小さいと思っていた音はかなりの大きさで響き、声には女のものも含まれている。
「……四階か」
嶺二は階を特定すると同時に、バットに風を纏わせ戦闘態勢に入った。
「俺が先頭を行く。嶺二は胡桃を挟んだ後方を頼む」
「あいよ」
「階段はあち――
ガシャァァアンッッ!!
「「「!?」」」
突如響く爆砕音に、三人の目線が打ち上がる。
そこには、途轍もない速度でコンクリートとガラスを粉砕した空を翔る何か、と、
宙を舞う真赤なドレスの少女。と、
それを追う、真赤な変態がいた。
§
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる