Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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2章

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 表参道ヒルズにて一夜を明かした彼等は、池袋の物とは比較にならない美しさのクリスマスツリーの前で、カップ焼きそばをズゾズゾと食す。

「ブティックばっか」

「まぁ、そーゆーの集めた場所だからな」

 口を尖らせるノエルに、しょうがないと言い聞かせる。

 レストランはレストランで、良い食材を使っているいいレストランが多い為、冷凍を求める自分達からすると渋いというもの。

「勿体ねぇよな~。原宿のスイーツ巡りは俺の楽しみだったのに」

 甘味好きの自分からしても、この場所が無くなったのには悲しいものがある。

 ついこの前までJKやJDで溢れかえっていたこの聖地も、今では閑散とした魔境だ。

 そんな昔の思い出に浸っていると、前方から怨嗟の混じった視線を感じた。

「……うらやま」

 頬を膨らますノエルに吹き出す。

「そうむくれるなって。日本も案外無事みたいだし、ここ出たら食い放題だぜ?」

「……ん。金も入った」

「金も入ったしな!」

「グラララララ!」「ゼハハハハハ!」

 彼等の高笑いの理由は一つ。先日遂に、国から口座の用意ができたという知らせが届き、加えて藜によって即日金が振り込まれたからだ。

 故に今の彼等は、貯金残高二十億を超える金持ちなのだ。


 ――「せっかく来たんだし、何かやってこうぜ」

「んー」

 ヒルズを歩きながら頭を捻るノエルだが、そんな彼女の目に一つの店舗が映った。

「……ファッションショー」

 大人びた服を着る、子供のマネキン。

「……いいね」

 笑い合った彼等は、悠々とお洒落な扉を潜った。
 




 ――試着室の前、東条がソファにどっかりと腰掛ける。

「準備はいいか?」

「ん」

 山手線内はクリスマスで時間が止まっている。
 今回はそれに合わせて、テーマをクリスマスコーデとした。

 準備完了の合図を受け、カメラを構える。

 さて、お手並み拝見といこうではないか。

「題!!」

「童貞殺し」

 瞬間、バッ、とカーテンが開き、着替えたノエルが短いランウェイを歩いてくる。

 シンプルな黒のニットに、ブラウンのチェック柄のフレアスカート。
 シックでおとなしめな雰囲気に、甘い栗色のレザーバッグが良い味を出している。

 優しい温かみを感じさせる、大人可愛らしいコーデだ。
 確かに、童貞ならば一撃で殺されていただろう。

 ノエルは自分の前でポージングを取った後、再び試着室に戻りカーテンを閉じた。


 そこからは只々、彼女のセンスの良さに脱帽させられ続けた。


「題!」

「パリジェンヌ」

 クリーム色のワッフルニットに、フランス産の赤ワインを彷彿とさせる、ボルドーカラーのセンタープレスワイドパンツ。

 黒のベレーと黒のショルダーバッグ、黒のバレーシューズを合わせれば、それは最早プァリのジュェエンヌに他ならない。


「題!!」

「大人のクリスマス」

 淡いベージュのツイストニットワンピースに合わせ、タイツを類似色で、パンプスを同色で揃える。

 シンプルながらも漏れ出す余裕と上品さは、男ならば誰しもが振り返ってしまうに違いない。


「だぁい!!」

「クラシカル」

 白のブラウスに黒のサロペットを合わせた、シックなモノトーンコーデ。
 エナメルブラックのハイヒールに、ストライプ柄のスカーフで、気分は異国のレトロ嬢だ。

 目の前でサングラスをくいッ、と上げられた時は、不覚にもドキリとしてしまった。
 やはり白黒は不動の組み合わせだ。


「んダァイっ!!」

 そして最後。


「ノエル」


 カーテンを開き現れたのは、真赤なモックネックワンピースに身を包んだ、この世ならざる美を持つ少女。


 その姿はまさに、物語から出てきたお姫様の様であった。


 遠慮なくボディラインを魅せるセクシーさから反転、ウエストからふわりと切り替わるフレアスカートは、少女の可憐さを最大限に引き出している。

「……」

 凝視しすぎていたのか、ノエルがもじもじと頬を赤く染める。

「……どう?」

 そんなの、決まっているじゃないか。

「……あぁ、とても綺麗だ」


「ん。……うれし」


 彼女は心底恥ずかしそうに、満面の笑みを浮かべた。


(……)

 東条はあの日あの時の、遠いようで近い過去を思い出していた。

 いつだったか、嘗て紗命とも似たようなことをしたものだ。

 彼女を連れて店内を巡り、お互いに着替えては見せ合った。

 似合っていると褒め称え、何だそれはと爆笑し、彼女の美しさに魅せられた。

 ノエルの純情で真っ白な鮮麗さは、その思い出を引き摺り出す程、自分の心を震わせたのだ。


 東条はそんな自分を可笑気に笑い、思い出の感謝と、幾許かの罪悪感をに捧げた。

「まさ?」

「あぁ、わりぃわりぃ。お前に見惚れてた」

 不思議そうに覗き込むノエルの頭を、ワシャワシャと撫でる。

「ん~。それは知ってる。まさのも用意したから着て」

「俺の?」


 いったい何を?言われるがまま試着室に入り、……そこにあった衣装を半眼で見つめた。

 ――「着替えたー?」

 ノエルが待ち切れないとばかりに足をぶらつかせる。

「……一応聞いとくけど、間違ってないか?」

「ノエルは間違えない」

 東条の弱弱しい声に、彼女は絶対の自信を持って答える。
 そこにあるのが答えだ、と。
 さっさと見せろ、と。

「……はぁ。えぇいッ、刮目せよ!!」

 諦めた東条は吹っ切れ、カーテンを力いっぱい引き千切った。

「あハハハハハッ、ダメっ、ツボっ、ふふふっ」

 ノエルが真赤なドレスを振り乱して転げまわる。

 彼女の視線の先に堂々と直立するのは……

 白いボンボンが付いた赤い帽子、グルグル鼻眼鏡、顔を覆い尽くす程の真っ白な髭、赤を基調としたふわふわな上下。
 そして左手に大きな袋、右手にはトナカイの押し車。

 正に、サンタクロースその人であった。

 しかし一つだけ、子供の味方皆大好きサンタクロースとは程遠い点がある。

「ぶふっ、似合ってる」

 ここは言っても子供服売り場だ。大人用のサイズがあるはずがない。

 故にサンタの見た目は、バチバチにはち切れそうな子供服を着た、変質者以外の何者でもなかった。

「……せめて大人用持って来いよ」

 サンタが溜息を吐く。髭がふぁさっと揺れた。

「ほら、ポージング」

 言われた通り彼は歩き出し、その度にトナカイがカラカラチリンと楽し気な音を出す。

「ふんっ」

 ノエルの前でマッスルポーズをとった瞬間、筋肉に押し上げられ、限界だった服の至る所が引き千切れた。

「ニャハハハハハッ」

「だいぶ楽になったな。……笑いすぎだろ」

 涙を流して腹を抱える彼女。彼の額に青筋が浮かんだ。

「おらっ」

「よっ」

 サンタは右手の袋を開き被せようとするも、背凭れに手をつきバク転したノエルに躱されてしまう。

「わるぃごはいねがぁってなァ」

「あははっ、鬼さんこーちら」

 互いにニヤリと笑った後、地面を蹴り抜き、お姫様と変質者の鬼ごっこが始まった。


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