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2章
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しおりを挟む――瓦礫が多く危ない為、普段は立ち入りを禁止している区域にある校舎の一角。
半壊した講義室に、五人の男女が集まっていた。
「さっきまた飯でトラブってたぜ?」
机に胡坐をかく嶺二は、かったるそうに先の揉め事を報告する。
檀上に立つ新はその報告を聞いた後、少し考えてから口を開いた。
「分かった。明日にでも遠征に出よう。メンバーはいつも通り、俺と嶺二、胡桃の三人で行く」
「分かりました!」
「……はいはい」
嶺二ともう一人、それなりに広い講義室にも関わらず、新のド真ん前に座る女性が元気に返事をする。
緩いカールがかかった髪、赤子の様なきめ細やかな肌を持つ、常に上品で優しい笑みを浮かべる彼女。
胡桃を一度目にした者は口を揃えてこう例えるだろう。お嬢様、と。
「馬場さんと正宗は、戦闘員を纏めて皆を守ってくれ」
「あいよ」
溌溂と返事をする女性は立ち上がり、伸びを一つ。
その身長はかなり高く、百八十㎝はある。スタイル抜群の身体にはすらりとした美しい筋肉が付き、鼻上のそばかすがキュートである。
そんな彼女ともう一人。
「分かった」
ツーブロックと目元が隠れる程度に伸ばした黒髪、落ち着いた色の服を着た高校生。
一見クールな彼も立ち上がり、さっさとと部屋を出て行こうとする。
そんな彼を、新が呼び止めた。
「正宗、後で皆で配置確認するから、十五時に会議室に来てくれ」
「オーケー」
ひらひらと手を振って扉を潜った彼を除いて、教室には四人が残る。
正宗の淡白な態度はいつものこと。しかし今日とて今日も、それを受けた新の顔はみるみると悲しみに曇っていく。
「……ん~。結構長い間一緒にいるけど、まだ距離がある気がする」
「普通に一人が好きなんだろ。お前みたいな、皆大好きお友達精神の奴の方が希だからな?」
嶺二は呆れ気味に現実を教えてやる。世の中、誰もが友達を欲しがっているわけではないのだ、と。
しかし、
「だけど、そこが新さんの魅力だと思います!」
「有難う胡桃。俺は諦めない」
すぐに胡桃にフォローされ、彼は理想の中に戻ってしまった。
嶺二は再び溜息を吐く。
二人の脳内がお花畑なことなど、二ヶ月前から知っている事だ。只々真っすぐで、悪を嫌い、好意を振りまき続ける。
お花畑と言われても仕方ない性格の二人だが、そんな甘い考えを補って余りある人格と能力を持っている。
現に彼等二人がいなければ、このお花畑を具現化した場所は出来ていないのだから。
それを美徳だと分かっているからこそ、嶺二も強く言えないのだ。
「馬場さぁん、俺いつもこんなバカップルについてってるんすよ?仕事交代しません?」
「遠慮しとくよ。糖尿病になっちまう」
「酷い言い様だな……」
「バカップル……(ポっ)」
自分のポジションに不満を漏らす嶺二を、馬場は快活に笑う。
そして、ふ、と思い出したように新を見た。
「あぁ、そうだ。正宗だけど、あいつ普段からふらっといなくなること多いだろ?」
「……言われてみれば、確かに」
「この前見張りしてた中に、外で正宗っぽいの見たって奴がいてね」
「外って、壁の外で?」
「ああ」
新は顎に手を当て訝しむ。
壁には出入口が無い為、外に行くにはいちいち胡桃に開けて貰わなければならない。
内側に彼女程の土魔法使いはいないし、魔力が繋がっているから外から干渉されれば即座に分かるはず。
目を向けて確認するも、彼女は首を横に振る。
正宗は確かにここの誰よりも身体能力が高いが、六mの垂直の壁など越えられるものだろうか?
身体を動かしたいならグラウンドに行けばいいし、そもそも危険を冒して外に行く理由が分からない。
「奴らと繋がってたりしてな」
「……冗談でもそういうことは言わない方が良い。二ヶ月一緒に過ごした仲間だろ」
「わりぃわりぃ」
顔を顰めて咎める新に、嶺二は手を上げて謝る。
彼等の言う、奴等。それは大学付近に居座る、半グレやヤクザくずれのアウトロー集団の事だ。
奴等は大した意味もなく大学内の避難民にちょっかいをかけては、不安や恐怖を煽る。
他人の不幸を笑いものにする、新が最も嫌悪するタイプの人種だ。
そんな奴等と正宗が繋がっているとは、彼には到底思えなかった。
「……でも分かった。一応彼の動向には俺が目を光らせておく」
今まで何度もやってきた纏め役達の話し合いは、不穏な気配を残して終わった。
時刻は十五時。
校内放送で集められた、総勢三十人前後の戦闘職。
年齢は十六から三十代程が多いか。やはりというか、男女比は男性に偏っている。
各々が自分なりの武器を持って、仲のいい者同士で固まっている。
「明日、俺と胡桃、嶺二の三人で物資調達に出る。近辺は大方行き尽くしたし、奴等に荒らされてるから、表参道の辺りに行こうと思ってる」
「ヒュ~、デートには最高の場所だ」
新の説明に、大柄な紫髪の男が茶々を入れる。彼の周りで小さな笑い声が起きた。
「情事に付き合わされる嶺二も大変だな。ハハハ」
「……黙れ毒島」
嶺二にギロリと睨まれた彼は、反省した様子もなく肩を竦める。
「続けていいか?……朝十時に出て、なるべく暗くなるまでには帰ってくるつもりだ。
皆にはいつも通り、壁を越えてくるモンスターを駆除してほしい。守りを固める為に、全員に配置についてもらう。配置はこうだ――――」
明日の作戦について、細かく説明していく彼であった。
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