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2章
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彼等の朝は早い。
戦闘職以外にローテーションで回ってくる食事当番は、周りが起き出す前に目を覚まし、自主的に炊き出しを用意する。
殆どがレトルトなのでそれ程の手間はかからないが、量がバカにならないためサボってはいられない。
そうして食事の用意ができた頃、皆がぽつぽつと起き始める。
一日に二度しかない、貴重な栄養補給の時間だ。
「どうぞー」
「ありがとうねぇ」
「どうぞー」
「あざす」
「どうぞー」
「ありがとうは?」
「ありがと」
「はーい」
「どうぞー」
「……ちッ、少ねぇな」
「……あ?」
人の数が多くなればなるほど、そこに溜まる不満や欲は大きくなる。
死と隣り合わせのコロニーの中で、いざこざが起きないはずがないのだ。
小声でぼやいた高年男性に、配給係のギャルが食ってかかる。
「何だよおっさん、いらないなら返してくんない?他の人にあげるから」
「誰もいらないなんて言ってないだろ」
二人の言い合いに周りの視線が集まる。
「取ってきてくれる人達に感謝も出来ないような奴が、これに手を付ける資格はないよ」
「「「そーだそーだ」」」
「ちっ」
女性の怖い所はその数だ。一人を怒らせると、もれなく仲間もついてくる。まるで狼。獣の群れだ。
「っ何を偉そうに、お前達も大したことは何もやってないだろ。女は黙ってろ」
「うわー、典型的男尊女卑の老害じゃん。話す価値無いわ」
嘲笑するギャルの態度に、高年の頭に血が上る。
「そもそも戦闘職だかなんだか知らないがっ、外に行けるならもっと持ってこれるだろっ。どうせつまみ食いでもしてんだろーよ」
「おいおっさん、それくらいにしとけよ」
高年に声を掛けたのは、配給食を持った青年の集団。この場所で戦闘を担っている者達の一部だ。
他の者と比べても、健康的な見た目をしている。
高年男性は彼等の配給量を見て、更に顔を顰める。
「ほら見ろっ、俺達と比べて明らかに多いじゃないか!」
「今に始まったことじゃないだろ。それにこっちは命掛けてんだ。これくらいの贔屓許してもらわなきゃやってらんねぇぞ」
「俺達の命なんてどうでもいいってか!」
「……守ってもらってる分際で、うるせぇな」
「「「――っ」」」
青年から魔力が放たれる。
彼の魔力は、快人や東条は勿論、快人の下についていた中年等よりも稚拙、矮小であったがしかし、その圧に全員が押し黙り、息を呑んだ。
幾分か重くなった空気に、体育館中が静寂に包まれる中、
「おいおい、どうした」
食事を貰う為訪れた嶺二の声が響く。その姿を見た青年は慌てて魔力を引っ込めた。
「このおっさんが飯が少ねぇって喚いてんだよ」
金属バットを担ぐ嶺二に射竦められた高年は、精一杯その目を睨み返す。
「そうか。なら勝手に外行っていいぞ。新には俺から言っといてやる」
「――っそんなの「無理だろ?なら無駄な体力使うな。お前のくだらねぇ一言で周りの人間が不安になんだよ」
「っちッ」
嶺二はは舌打ちを残して去って行く高年の背中に溜息を吐く。
「お前等も、皆を下に見る様な発言はするなよ?」
「……ああ、悪かった。カッとなっちまった」
後に漂う気まずさと不安の残香に、嶺二は頭を掻いた。
「……まぁ、気持ちは分かるけどよ」
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