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美味いもん食いてぇ

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3巻~友との繋がり~ 1章

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(……こいつは、ヤバい)

 今でこそ先までの圧は感じないが、それでも東条の本能は警鐘を鳴らし続けている。


 今すぐ逃げろ、と。
 でなければ、全力で殺せ、と。


 ジワリ、と冷汗が頬を伝った。


 通常魔力を知覚できる者は、モンスターも人間も区別なく、魔力量の差で力量を計り、本能的に襲撃か逃走かを決める。

 それが最も効率的であり、合理的であるからだ。

 では何故東条や快人が、自分より魔力量の多い敵を前に立っていられるのか。

 その理由がcell、合理の外にある力を有しているからだ。

 自らの力を自覚し、引き出し、覚醒した彼等は、他の生物とは言葉通り『格』が違う。

 人間が蟻に怯えない様に、鷹が鼠に怯えない様に、彼等は有象無象に怯えない。

 ただし力が隔絶しすぎていた場合、その限りではない。

 恐怖が『格』を貫き、心を蝕む。
 ジャイアントキリングは何時いかなる時も起こり得る。

 話を戻すと、魔法だけを扱えるモノが魔力量という目しか持たないのに比べ、彼等は魔力量に固執することなく、格という目で力量を計ることができる。

 敵がcellに覚醒しているかまでは当然分からないが、覚醒者はより詳細に敵の力を見極められるということだ。

 そして藜を前にした東条の本能は、この男を自分と同格か、それに匹敵すると訴えている。


 奴の危険度は、本気のノエルよりも、上だ。


 東条は警戒を表に出さない様に、ノエルを連れ対面のソファに座った。

 紅と同じく真赤なポケットチーフをつけているのが残り二人。
 目の前の男をボスとして、この三人が最高権力者なのだろう。

「いやぁ申し訳ない。あまりにも凄い人が来たもんで、咄嗟に威嚇してしまった」

「本当ですよ。一瞬で帰りたくなりました」

 声に不自然はないだろうか?
 平静は装えているだろうか?
 自分の顔が隠れている事に、過去一番の感謝をした。

 言葉的に見るなら、相手もそれなりにビビってくれているようだが。

「はははは、まぁそう言わずに。商談といこうじゃないの」

 タイミングよく、組員の女性がお茶と高そうな茶菓子を運んできた。

 机に置かれると同時に、バリむしゃとノエルの口に吸い込まれていく。先の緊張感はもう忘れたらしい。

 そこで、声のトーンを変え藜が此方を見る。

「単刀直入に聞きたいんだけど、君達、猿に似たモンスターの情報を持ってないかい?
 持ってるならそれなりの値で買わせてもらうよ」

「猿、ですか?」

「あぁ。腕が異様に長い、焦げ茶色の猿共だ。ボスだけ白い斑模様がある。
 俺が探してるのはそいつなんだけど、知らない?因みに声はウキャキャね」

 異様に熱を持つ彼に押されつつも、東条は考える。
 しかし今まで何種類ものモンスターを見てきた彼だが、猿型に遭遇した記憶はない。

「んん……猿型は見たことないですね」

「それらしき影を見たとか、猿っぽい声を聞いたとか、何でもいい。思い出せないかい?」

 更に詰め寄る藜だが、知らないものは知らない。

 東条は首を横に振った。

 前のめりになっていた藜は、落胆したように顔を暗くし、ソファに深く腰を沈める。

 なぜそこまで執着するのか聞いてみたい気もするが、快人の時の様に厄介ごとに巻き込まれるのは御免だ。

 それに、クライアントとホストはそれ以上でもそれ以下でもない。個人の詳細に切り込むのはご法度だ。

「力になれないようで、申しわけないです」

「いや、……いいよ。しょうがない」

 見るからに意気消沈してしまった藜が、テーブルの上に紙きれを置き、杖を持って立ち上がる。
 どうやら退出するようだ。

「ここに聞きたい事を書いておいた。後はお前達に任せるよ」

「へいへい」

「なら私は戻るよ」

「……ジジイだけ残すんじゃねぇよ」

 三者三様の行動の後、老爺が二人に苦言を漏らす。
 それを無視して藜は二人に向き直り、

「もう遅いけど、泊っていくかい?」

 親切な提案を寄こす。しかし、

「……いえ、有難いですけど遠慮しておきます」

「そうか。気が変わったらいつでも言ってくれ」

 藜も断られた理由は聞かない。聞く必要もない。心の内は同じだろうから。


 ……そうして去ろうとした彼の背中に、突如として声がかけられた。

のえふほのはぅひっへふほノエルその猿知ってるよ

 それは今まで口を開こうとしなかった、というか物理的に喋ることの出来なかった、頬袋をパンパンにした少女のものだった。
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