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終章 上には上がいる
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しおりを挟む「君が相手してくれるのかい?」
大きなリュックを背負う少女が自分に向かって歩いてくるのを見て、快人は後ろに跳躍し距離をとる。
頭がおかしくなっていても、魔力差を忘れる快人ではない。
その点に関して、彼は誰よりも敏感なのだ。
「グランドスピア!」
伸ばす三柱の槍を、しかし少女に同じ技で叩き壊される。
「クソっ……これならっ」
四本、五本と数を増していく長大な槍だが、その悉くが放った傍から撃墜されていく。
全く同じ力で。全く同じ形で。
当の少女は涼しい顔。余計苛立ちが募る。
そんな攻防の中、彼女が口を開いた。
「他には?」
「……は?」
「他の攻撃は?」
……どういう意味だ?
考え、数秒。理解した。
この女は、自分に他の攻撃を要求しているのだ。
もう飽きたからそれはいい、と。
他のを見せろ、と。
強者であるという彼の自尊心を、冷めた目で一蹴して。
「黙れッ!!」
叫ぶ快人に同調し、七本の槍が地を削り同時に少女に伸びる。
速さも大きさも、今までで最速の一撃。
ノエルは自分に迫る渾身の攻撃に、心底落胆する。
同じ型の攻撃しか行えないなど、それのどこが魔法だと言うのか。
それに見たところ、彼が制御できる魔力範囲は精々半径十m。
要するに、十m内にある大地にしか干渉できないという事。
遠ければ遠い程魔力の扱いも難しくなる。
多少の操作が必要となる槍という武器を、彼が近場の地面を伸ばし作っているのもそのせいである。
しかしそうして作った全力の一撃でさえ、ノエルの無気力な一撃と同等。
総じて、
(弱い……)
よくこれで尊大に振る舞える、と彼女は心底感心する。
余程運が良かったのだろう。
ミノタウロスなどの本物の強者に出会っていれば、確実に殺されているレベルだ。
「もういいや」
技の応酬で早々に彼を諦めたノエルは、次いで今回の目的である実験を開始するのだった。
――(……やったのか?)
快人の放った土槍と、ノエルが出現させた土壁が衝突し、盛大に土煙を上げている。
パラパラと土塊が降る中、彼は真っ先に自分の魔法が相手の壁を砕いたのだと確信した。
……事実は全くの逆だというのに。
「――ッ!?」
唐突に粉塵を突き破り伸びてくる十本の土柱に驚愕し、全力で後退。
一本一本が電柱の五倍はある質量物が、彼の後を追い地面を爆砕していく。
「――っな!?くぅっ」
最後の一本をギリギリで躱した直後、真横からの一撃を察知し、即席の盾で軌道を逸らした。
「おー」
「……どうやって」
見開かれる快人の目に映るのは、壁の上で足をぶらつかせるノエル。
ではなく、自分を通り過ぎていった直径二mを程の槍。
只の土槍なら何とも思わなかったが、それは、
……宙に浮いていた。
「それがお前の能力かっ!?」
「はて?」
「しらばっくれるな!!地面と接触していないのに、土魔法が使えるわけないだろ!!」
彼の疑問は至極当然のものであった。
本来土魔法とは、他属性と違い、どんな形で生み出そうと必ず地面と繋がっている。臍の緒がずっとついている様なものだ。
その分他属性より魔法の構築が速く、何よりも頑強という強みがある。
今目の前にある魔法は、快人が何度も模索して不可能と結論付けた土魔法なのだ。
自力でその事実を調べあげた快人のセンスと研鑽は本物であり、評価に値する。
故に、目の前で起きている現象の意味がわからなかった。
「知らぬ」
「嘘つ、クぅッぼぇっ」
再度飛来する槍を土壁で防ごうとするも、強度が足りず貫かれ腹に直撃する。
先端が丸くなっていたおかげで吹き飛ぶだけで済んだが、もし相手がその気なら確実に死んでいた。
「ひゅー、ひゅー」
くの字に身体を折り、必死に息を吸う。
敵を睨み殺さんと顔を上げた彼は、
……周りに広がる光景に、只々唖然と呆けてしまった。
魔法の残骸が解体され、砂となってドーム中に舞い上がっていく。
集まり、合わさり、形を成すそれ等は、数百の剣となって快人を囲んだ。
「ぼーっとしてると死んじゃうよ?」
「――ッ」
あまりにも非現実的な空間に放心していた彼だが、躊躇なく腕を振り下ろす少女の姿と、土色の空が落ちてくる感覚に、無理矢理意識を覚醒させられる。
(この数っ、できるか!?違う!やれ!!やらないと死ぬッ!!)
快人は己の中の能力、cellを、全力で行使した。
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