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3章 旅立ち

15話

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「君達、心優しい旅人が食事を恵んでくれるようだ。一度外に出てくれ。早く」

 突然の指示に狼狽える避難民だが、抵抗する意思もない彼等は怯えながらも快人についていく。

 外に出た総勢二十数人の集団は、自分達の先に四人の若者がいるのを見て安堵した。

 普段から素っ気なくも、優しく接してくれるα、β隊の八人は、快人なんかよりもよっぽど信頼できる人達だ。

 そんな四人の方に歩き出す集団を確認し、……快人は背を向けた。

「キララ、もう少し下がってくれ」

「わかった」

「……あれ?快人さ「グランドウォール」

 立ち去る快人に気付いた一人が名前を呼ぶも、声は届く前に堅牢な土壁に阻まれる。

 一瞬にして拠点を囲む様に自分達とを分断した五mの壁に、誰もが唖然とする。

 そして脳裏を過る。囮の文字。

「嘘だろ!?」「お願い助けて!」「子供だけでも!」

 大騒ぎになる、寸前、

「落ち着いて下さい!大丈夫ですから!」

 快人が壁を張ると同時に開けた穴を通り、中年が声を張り上げた。

「リーダーはこの方を信頼していないだけです!皆さん普通に戻れますので心配しなくて大丈夫です!」

 前に出る東条に数人が怯えるが、お構いなしに洗濯機を地面に下ろす。

「こん中に食べ物入ってるんで、好きなだけどうぞ」

 そう言って再び下がる東条は、彼等を怖がらせないよう、なるべく距離を取って地べたに腰を下ろした。




 大量の食料を配っていく中年と、その周りに広がる食事風景を遠目に見る。

「ガリガリ」

「あぁ。まともに食わせてもらってないんだろうな」

 コンビニで聞いていたため、然程驚きはしない。

「可哀想?」

「別に」

 東条は大して興味も無い、と空を見上げ、ふわふわと揺蕩う綿雲を眺める。

「何もできないし、何もしないし、何もしようとしてないんだろ?じゃあ戦える人間優先に飯配んの当然だろ」

 嘗て自分がいた場所では、皆が一人一人出来ることを探し、互いに尊重し合い助け合っていた。

 全力で生きていたからこそ、誰も卑屈にならず、自暴自棄に陥らなかった。

 自らの存在意義を確立するというのは、集団の中では必須のスキルだ。それで心持も変わるし、活力も湧いてくる。

 ただそれも、上に立つ者によって大きく左右されるのは否めない。

 もし自分が最初からあの場にいて、有り得ないがリーダーをしていたら、きっとここと似たような環境になっていたのではなかろうか。

 そう考えるとあのメンバーは、とても稀有な人材が集まっていたのかもしれない。


 ……割れたブローチを空に掲げ、透き通る紫を懐かしんだ。

「同感」

「ははっ、冷たい奴だ」

「何で邪魔者扱いするのに助けた?」

「まったくだな。バカなのか何も考えてないのか、大方力に酔って悦に浸ってるとか、そんなとこだろ」

 女でも、金でも、力でも、価値あるものを手に入れると人間は増長しやすい。自分もそれは身に染みている。

「……あ、ハンバーグ」

「……大福じゃね」

 雲の形で遊びながら、彼等の食事が終わるのを待った。
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