上 下
112 / 218
3章 旅立ち

14話

しおりを挟む
 


「……あのおっさん達無事かな」

「……」

 ネットカフェの外、バリケードの内側。
 軽食を食み、休憩をする四人の若者達がいた。

 彼等の表情は一様にして暗く、充満する空気もどことなく重い。

「強く言い過ぎたかな」

「そんなことねぇよ。あっちも俺らを売ろうとしたんだ。
 ……どっちが間違ってたとかじゃねぇんだよ。俺もあっちの立場なら同じことをした」

 あまり話す間柄ではないといえ、こき使われる者同士今まで生き残ってきた仲だ。

 なんだかんだ互いに共感し、心配し合っているのも事実だった。

 だからと言って何かできるという訳でもないのだが……。

「……俺達なら、四人でも特区出れんじゃないかな?」

 いつも話題に上がる脱出計画。しかし出る答えも、いつもと同じ。

「常に張り詰めて、夜もぐっすり眠れない中、いつ来るかも分からない襲撃に怯えるんだ。お前耐えれんのか?」

「……」

 全員が黙り込んでしまう。その沈黙が彼等の意思を代弁している。

「……それに見たろ。リーダーが戦ってたホブってやつ。あんなのに勝てると思う程、俺は自惚れてねぇよ」

 一度だけ見た事のある、快人の戦闘。

 その時に戦っていた相手は、自分達では到底届かないレベルの敵であった。

 そして快人は、そんな敵を圧倒していた。

 策も無く出たら確実に死ぬ。非情な現実を、彼等はあの場で実感したのだ。

「たまに出てはレベル上げ、持ってきたもんは全部自分とあの女の物。
 そもそも何だよあのクソギャルっ、体で媚び売りやがって、余裕あんならガリガリに痩せたあいつらに分けてやれよっ「おい、……落ち着け」

 感情的になる一人を、もう一人が冷静に宥める。

「聞かれたら即追放だぞ。。その状態であいつの前に出るなよ?」

「……分かってるよ。わりぃ」



 ――雑談も区切りがつき、鍛錬に戻ろうと立ち上がった。矢先、

「――おいっ、何が来た!」

「え?」

 ドアを開け、快人とキララが飛び出してきた。

 初めて見る快人の焦燥に、隣にいる彼女も焦っている。

「チッ、速く外を確認しろっ。何かいる」

 命令を受けた四人は、慌てて土で造られた高台に上り、恐る恐るバリケードの外を眺める。

「……んだよ、おっさんじゃねぇか。と、誰だあれ?」

 β隊の後ろには、見たことのない顔が二つ並んでいた。







「もしもしリーダー、今帰ったので開けて下さい」

『後ろにいるのは誰だ?人間か?』

 電話越しに聞こえる声は、明らかに此方を警戒している。

 東条は、今しがた高台に現れた男に目を窄めた。

「まぁまぁ」

「ミノさんには負けるかな」

 品定めの結果、脅威にはならないと判断。
 しかし使えるのが魔法だけとは限らない。
 問題がある人間ということも分かっている。

 一応警戒はしておこうと決めた。

「あの、まささん、リーダーが変われと」

 渡された携帯のスピーカーをオンにする。

『何者だ?何処から来た?何をしに来た?』

(何だこいつ、初対面の相手に敬語も使えないのか?)

 パンピーの分際で随分と大仰な態度だ。東条は今の一言で快人を見限った。

「まさ。池袋。施し」

 相手に敬意が無いのなら、こちらからくれてやる程自分は人ができていない。

 目には目を、歯には歯を、だ。
 それで世界が盲目になるなら勝手になってろ。

『施し?何を』

「飯」

『……その黒いの、魔法か?何の能力だ?』

 能力?

「……じゃあ此方も聞くが、お前のはなんだ?」

『っ……』

 携帯の奥から一瞬狼狽えたような感情が伝わってくる。そこで東条は確信を得た。

 正直言って、、に意味はない。只のブラフだ。

 事実自分は魔力以外何も感知出来ていないのだから。

 しかし奴は、魔法以外の力を知っているような口ぶりであった。
 揺さぶりをかけてみたところ、あっけなくボロを出したというところだ。

 返事を待っていると、

『……お前を中に入れることはできない』

「あ?」

「え!?」

 返ってきたのは拒絶の意思。中年が驚きの声を上げる。

『僕が匿っている人達に危害が及ぶかもしれない。承諾しかねる』

「そんなっ、彼等はいい人です!私達も助けられましたっ」

『なぜそれに裏があると疑わないんだ?浅はかな妄信でここにいる全員を危険に晒すかもしれないのに、君にその責任がとれるのか?』

「っ……」

『分かったら悪いが去ってくれ。食料をくれるというのなら有難く受け取らせてもらうが、生憎お返し出来るような物はない』

 リーダーの指示も一理あるのだ。申し訳なさそうな、悔しそうな顔で俯く四人。

 このまま去っても構わないのだが、……

「あんた土魔法使えんだろ?匿ってる人をネカフェの外に出してから、新しく分断するのはどうだ?
 俺は、苦しんでる人に、自分の手で食べ物を配ってあげたいんだ」

 東条は嘘の笑顔を張り付け、思ってもない事をペラペラと語る。

 まるで、自分の心が善意の塊であるかの様に。

『……なるほど…………。とんだお人好しだな。

 …………分かった。少し待っててくれ』


 一方的に切られる通話に、四人がキョトンとする。
 中年に携帯を返し、東条はひくつく肩を必死に抑える。が、

「……ぷっ」

 沈黙を破ったのは、ノエルが噴き出した音。

「あはははは、滑稽、滑稽」

「ふひひひひっ、笑ってやるなって。そりゃ誰だって自分は大事さ。ひひっ」

「まさも笑ってる」

「これが笑わずにいられるか。俺だってもう少し考える頭あるぜ?」

「ない。すかすか」

「はははっ。ぶっ殺すぞお前」

 楽し気にどつき合う二人。突如笑い出した彼等に、四人は茫然とするしかなかった。


 二人が声を上げて笑う理由は明白。
 東条の提案は、快人が自分自身で言った『匿っている人達の危害』を一切無視した提案に他ならないからだ。

 結局のところ、自分の身が危険に晒されるのが嫌なだけというのが、彼の言葉で分かってしまった。

 何より数秒前の自分との矛盾に気付いていない彼自身が、滑稽で滑稽で、仕方がないのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

異世界調査員〜世界を破滅させに来ました〜

霜條
ファンタジー
増え過ぎた平行世界の整理を行う調査員が、派遣された先の世界で大事なものを落としてしまう 一体どうしたら仕事ができるのか、落ち込むポンコツ調査員に鷹浜シンジは声をかけた 自分に気付いてくれたこの人になんとか自分を好きになってもらい、この世界を一緒に滅ぼして貰おうと頑張ります 鷹浜シンジは親切心から声をかけたことを後悔した。 ただ困っている女子に声を掛けただけのはずだったが、そいつはどうやら世界を滅ぼそうと考えていた厄介で常識外の存在だった。意味が分からない。 だが行く当てのない女子を放っておくことも出来ずに、なんかとか距離を取ろうとする。

処理中です...