Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

文字の大きさ
上 下
99 / 218
3章 旅立ち

1話

しおりを挟む
 

 罅割れた道路をひょいと跨ぎ、呑気な鼻歌が二人の足取りを軽くする。

 頑丈な壁の隙間を蔦が這い、屋根から大樹が顔を出す、コンクリート+ジャングル化したポストアポカリプス。そんな場所を彼等は現在、進路を東へと向けて進んでいた。

 それもこれも、ノエルの『見たい』を叶える為。

「水族館行って何が一番見てぇ?」

「ニモ」

「あ~皆好きだよな、あれ」

 あの映画で一躍海のアイドルとなったカクレクマノミ。
 イソギンチャクの中に住む生態は愛嬌があるが、イソギンチャクの方が見ていて面白いと思うのは自分だけだろうか。

「まさは?」

「クラゲ」

「えー」

 ゆらりゆらりと漂うあの姿に、漠然とした安心と情緒的何かを感じるのだ。

 あれが侘び寂びというものだろう。

「いいじゃんクラゲ」

「つまんない」

「かー、分かってねぇな。俺くらいになるとな、見るからに可愛いもんよりも、ダンゴウオとかブロブフィッシュみたいな何考えてんのか分かんない奴が好きになってくんだよ」

「ふーん」

 自分も彼くらいの年になったら分かるのだろうか?
 そんなことを考えながら、乗り捨てられ、木と一体化してしまっている車から飛び降りた。

「あーでも、シャチは好きだな。色カッコいいし、何より強ぇ」

「白黒。ノエル達みたい」

「確かに」

 言わずと知れた海の王。小さい頃見たショーには興奮したものだ。

「シャチいる?」

「いやー、流石にいないだろ。もっとデカい水族館じゃなきゃ」

「……残念」

「今後の楽しみにしときな」

「ん」

 やけに静かな道程に疑問は抱かず、彼等は目的地へと順調に進んでいった。




 ――「しっかし人いねーな」

 サンシャイン六十通りの入口に立つ二人は、不気味なほど静かに立ち並ぶ商店をつまらなそうに見つめる。

 やはり最凶エリアというだけあって、殆どの建物がトレントと一体化してる。

 道中もそれは変わりなかった。
 他の被災地を見ていないから分からないが、これ程の終末世界、やはりここでなければお目に掛かれないのではなかろうか。

「てかずっと撮ってんのか?」

 ここまで一度もビデオカメラを下ろしていないノエルに、呆れたように話しかける。

 黒いレンズは、依然東条を睨んだまま。

「当たり前。冒険記録する」

「まぁいいけどよ。……いつかリュック一つSDカードで埋まりそうだな」

 想像できてしまう未来に溜息が漏れるが、今は気にしないでおこう、とあと少しの目的地に目を向けた。



 あっけなく到着してしまった目的地を見上げ、次に自分達が歩いてきた道を振り返る。

「……なんでこいつら出てこねぇんだ?」

 そこら中に感じていた魔力反応。それ即ち人間だかモンスターだか、どちらにせよ生物がいる証拠。

 いつ襲われてもいいように構えてはいたが、何故か一向に出てくる気配がない。

 一匹にも会わないなど、そんなことがあるのだろうか。

「俺の感覚が鈍ったんか?」

 デパートの中を一掃してからは、引き籠りのニート生活だった。有り得ない話ではないが、しかし、ノエルがそれを否定する。

「いるよ、いっぱい。出てきてないだけ」

「それまたどうして?」

「怯えてる」

 過酷な環境に長く居る者程、弱肉強食の掟には敏い。

 現にモンスターは、そこら中から彼等を見ている。
 そして同時に、嘗て感じたことのない身の毛もよだつ威圧感に、必死に息を殺しているのだ。

「なるほど。……じゃああれはとびっきりのバカってことか?」

「ん。身の程を知らない自殺願望者」

 悠々とこちらに歩いてくるホブ一体とゴブ二体を、彼等は冷めた目で見据えた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...