Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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2章 満たす白 空っぽの黒

18話

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 ――暦は二月。

 まだまだ肌寒さが消えぬ月ではあるが、土の下では、春を待ちわび新芽が顔を出す支度を始める。

 自然も、人間も、モンスターも、仄かに香る冬明けに備え、ゆっくりと動き出す。

 そんな中、一足先に準備を終え、今まさに飛び立とうとしている者達がいた。

「リュックよし」

「よし」

「洗濯機よし」

「よし」

「カメラよし」

「よし」

 場所は屋上。指差し確認で忘れ物がないか確かめ、最後に自分達の前に立つ三脚を見据える。

「回していいぞ」

「おけ」

 今から撮るのは、記念すべき最初の動画。自分達の活動方針の説明と意思表明だ。

「今はとれば?」

 ノエルが東条の頭を覆う漆黒を指さす。

「セルフモザイク」

「なる」

 身バレして親類に迷惑をかけるのは違う。そう考えた東条は、世に出回る自分の顔は全て隠そうと決めたのだ。

 元々常時外す気は無かったし、何より外せば一人の時動きやすくなる。


 ノエルがリモコンを押し、ビデオの録画が始まる。

 堂々としている彼女の横で、東条は少しだけ緊張に身体を固めた。

「ノエルはノエル。今から山手線の中を冒険して回る。欲しい情報があったら言って。沢山のお金と交換。あと国はノエルの口座作って。動画上げるから見て。血はいっぱい出る」

 言いたいことを最短で列挙していく彼女に、思わず苦笑が漏れてしまう。

「……最後に忠告。ノエル達はやりたくない事はやらない。やりたい事だけをやる。法律は遵守するけど、それ以外に従うつもりはない。応援よろしく」

 そう言って彼女は録画停止のボタンを押した。
 視聴者のへの配慮など一切考えない、実に独善的で、彼等らしいスピーチ。

 ノエルは早速パソコンとビデオを繋ぎ、拡散の準備を始める。

「どんくらいかかる?」

「すぐ。アプリは作った。後は今の動画と一緒にSNSにばら撒く……だけ……、終わった」

「はや」

「じゃ、行こ?」

 飛びつく彼女を抱え直し、にやりと笑う。

 遂に来た。この時が。


「新たなる旅路にっ」
「しゅっぱーーつ」


 燦燦と降り注ぐ陽光をバックに、助走をつけ思いっきり屋上から飛び降りた。


 今日は絶好の冒険日和だ。





 §




 ――ネットサーフィン中の男。

 会社で休憩中のビジネスマン。

 お昼休みのオーエル。

 講義中、スマホを弄る大学生。

 力を手に入れた、余裕のある被災者達。


 サムネイルに映る絶世の美少女からか、はたまた顔を黒く塗りつぶした男の不可解さからか、一本の動画が、何の気なしにその暇潰しの手を伸ばさせる。

 彼等は思った。何だこの子めっちゃ可愛い。
 彼女等は思った。何この子可愛い。

 そして動画の内容の凄さに、目を見開く。

 声には出さずとも、待ち望んでいた者は多い。特に男。
 魔法やモンスターと聞いて、心躍らない人の方が少ないのではないだろうか。

 最近は、自衛隊によって救われた者や、復興の順調さを告げる情報しか流されない。で起きたことは、頑なに情報規制がかかっている。

 特に、……そう。山手線エリア。

 安全地帯にいるからこそ、何も考えず、激戦区を娯楽というカテゴリーに当てはめられる。

 そういった人間にとって、この動画程娯楽に適したな物は無かった。


 彼等彼女等によって、ノエルの動画は瞬く間に拡散されていった。




『おい、あの動画見たか!?』

『ノエルちゃん可愛すぎて草』

『隣の奴怖すぎて草』

『山手線エリアって一番ヤバい場所だよな?』

『そんな場所で冒険とか、相当腕に自信があるのか?』

『噂の強力な魔法使えんじゃね?』

『国が秘匿してるってあれか』

『俺だって獄炎のダークフレイム使えるぜ?』

『俺だって激流のファイナルウォーター使えるぞ』

『マッチの火と水滴が粋がんな』

『こいつらの弱小魔法はいいとして、強力な力持ってんのは確定だろ』

『……今日からそれが見れんのか』

『……楽しみだな』

『だがそれよりも……』

『ノエルちゃん可愛い』

『ノエルちゃん可愛い』

『ノエルちゃん可愛い』

『強気なところに惹かれる』

『自分最優先なとこに惹かれる』

『あの真っ黒、その場所変われってんだ』

『まったくだ』

『俺達で奴が彼女の隣に相応しいかを見極めてやらないとな』

『おう!!』




 §
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