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2章 満たす白 空っぽの黒
11話
しおりを挟む――「わぁ」
「どれにすんだ?」
ずらりと並ぶスマホに飛びつくノエル。東条も店内を見て回る。
「Orange」
「安定のな」
背面のロゴ、齧られたオレンジがキラリと光る。勿論色は白と黒。
物珍し気に商品を弄っていたノエルだったが、そこであることに気付いた。
「あ」
「どした」
「SIMカード無い」
「なんじゃそりゃ」
SIMカードとは、簡単に言えば本人識別のためのICチップの様な物だ。これが無ければ通話すらできなくなる。要するに、携帯が携帯足り得る為の必須物だ。
「売ってないん?」
「売ってるけど、ノエルじゃアクティベートできない」
東条には難しくてよく理解できないが、それなら、
「しょうがねぇ。引っぺがしに行くか」
「……新品欲しかった」
むくれるノエルを連れ、虫取りならぬスマホ取りへと店を出た。
――先にシャワーを浴びた東条は、タオルを肩にかけテレビを見ていた。
「ただま」
「おう、おかり」
濡れてぼさぼさの髪そのまま、ノエルがソファに飛び乗る。
「……まさ、結構寝てるのにクマ酷い」
「ん?あぁ、……寝ようとはしてるんだけどな、寝れなかったんだよ」
睡眠不足を感じた頃から寝る努力はしたが、全く眠ることが出来なかった。
……だが、それも昨日までのことだ。
「もう寝れる?」
「……あぁ、お陰様でな」
頭をワシャワシャして、その湿度に驚く。
「おまっ、全然髪拭いてねぇじゃん」
「拭いた」
「ったく。タオル貸せ」
「わ、あわわわわっわわわ」
前に座らせ、タオルで頭をこねくり回す。
大体乾いたらタオルを放り投げ、先ほど木から引っぺがしてきたスマホを取り出した。
新品が使えないのなら、中古で我慢するしかない。運が良いのか悪いのか、そこらには持ち主のいなくなったスマホがゴロゴロと実っている。
既にノエルによってパスワードの解除と初期化を行われた二つのスマホは、新しい主として彼等の手に馴染んでいた。
汚くなったボディを拭き、ガラスフィルム、ケースを装着する。
何だかんだ、自分だけのスマホを創り上げるこの瞬間が一番興奮するのだ。
「……でもよく考えたらさ、俺達電話番号持ってないよな」
「SNSで何とかなる時代」
「確かに。アドレスは適当に作ればいいしな」
「ん」
すぐにアプリのダウンロードとアドレス作成の準備に入るノエルを後目に、東条はスマホを持って立ち上がった。
「ちょっと出てくる」
「どこ?」
「屋上」
「ん」
スマホを握る手に力が籠っていることに、自身も気付かないまま、彼は屋上へと歩みを進めた。
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