Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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2章 満たす白 空っぽの黒

10話

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 ――「……わりぃ、もう大丈夫だ」

「ん」

 頭に回されていた腕が解かれ、東条は自力で立ち上がる。

 どうにもこっ恥ずかしくて、下から覗き込む彼女から眼を逸らした。

「その、なんだ。……ありがとうな」

「ん」

 差し出される手。

 小さく頼りない手が、今だけは、とても大きく見えた。

「――っ……」

 握り返すとグイ、と引かれ、一気に扉の向こうへ連れ出される。

 振り返れば、デパートのドアは後ろにある。


 ……こんなにも簡単だったのか。前に進むというのは。

 自分を照らす太陽に目を窄め、漆黒を出そうとして、……やめた。

 胸いっぱいに冷たい空気を吸い込み、埃塗れの肺を一新する。


 ……彼等はいなくなった。

 でも、自分の中からいなくなったわけじゃない。
 進んでいけばいい。
 これからも。

 彼等と共に。


 重い荷を背負い直した東条は、きっかけとなった彼女の方を向く。

 改めて礼を言わねば。

「ありがブふッ……」

 振り向いた直後、顔面に固い雪玉が直撃した。

「バーン」

「……ほぉ?」

 綺麗な投球フォームのまま、彼女が言ってのける。

 ……せっかく感謝してやろうと思っていたのに。……やめだ。

 東条は腕部分を顕現、肥大化させ、筒状に構成。

 無数に飛んで来る雪玉を躱しながら、その中に雪を詰めていく。

 一瞬で肉薄し、砲口を突き付けた。

「やば」

「ふっとべや」

 ボンッ、と砲声が鳴り、小さな身体が容赦なく宙を舞う。

「――うげっ」

 彼女は木に激突し、落ちてきた雪に埋まった。

「……死んだか?」

 大砲を肩に担ぎ、白い小山を見つめる。すると、

「怒った」

 にょきッ、と頭が生えた。

「ハハハ、来いや」

 飛び出す彼女を前に、漆黒を消し、今度は正々堂々と腕力だけで迎え撃った。





 ――「――はぁっ、はぁっ、……やるじゃねぇか」

「――はぁっ、はぁっ、……まさも」

 お互いを湛え拳をぶつける。

 手当たり次第に雪を投げ続け、禿げたコンクリートの上に寝っ転がる二人。

 東条はジャンパーを脱ぎ、汗を拭う。
 久しぶりに、こんなに身体を動かした。
 下手したらホブよりも手強かったかもしれない。

「はぁ、はぁ、……決めた」

「何が?」

 唐突に呟く彼女を不思議に思い、目を向ける。

「名前」

「……お前の?何で今よ」

「思いついた」

 彼女は空に手を翳し、降りしきる雪を一つ、握りしめた。



「ノエル」



 聖なる夜を意味する言葉。

 大切な者《なかま》と過ごす時間。

 自分にはぴったりの名前だ。

「……いいじゃん」

「ん」

 東条は立ち上がり、彼女を、ノエルを引っ張り上げる。

「んじゃ帰るか。シャワー浴びてぇ」

「ん」

 汗を流す為歩き出すと、ふ、とノエルが止まった。

「スマホ」

「あぁ……忘れてた」

 雪合戦に夢中になりすぎて、本当の目的を忘れていた二人であった。


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