Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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2章 満たす白 空っぽの黒

6話

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「……お前、一日中それやってたのか?」

「ん」

 パソコンを慣れた手つきでタップする彼女。
 生えた腕をもう完璧に操っている。

「何調べてんだ?」

「モンスター」

「何で?」

「バレたらどうなるか」

「あぁ、なるほどね」

 要するに、自分の本当の姿がバレたらどうなるかを、モンスターが人間に与えた損害から予想していたのだろう。

 実に周到なことだ。

「で、どうなる?」

「死ぬ」

「だろうな」

 当然だ。擬態できるモンスターがいると知られれば、それはもう酷い目に合うに決まってる。

 東条は然して気にした風もなく、伸びをして眠気を払った。

「朝飯何食うよ」

「ラーメン!」

 彼女は画面から顔を上げ、待ってましたと笑顔を作る。

「それまたどうして」

「もう箸持てる」

「あぁ~」

 手でチョキを作る彼女に納得する。色々試したくてしょうがないのだろう。

「おっしゃ、んじゃあの店行くか」

「賛成」

 二人してレストラン街へ歩を進めた。



 ――冷凍麺を取り出し、湯に掛ける。同時に冷凍庫からスープの入った寸胴を取り出し、コンロに置いた。

 二人は解凍が終わるまで、しばしテーブルで待つ。

 カタカタとキーボードを叩く音が、ボロボロの店内によく響く。

「……お前これからどうすんの?」

「動画投稿者になる」

「…………は?」

 いきなり飛び出すビックリワードに、目が点になる。

「動画出して、お金稼いで、美味しい物食べる」


 X tubeを見て育ってしまったが故の現代病。

 画面の向こうに無限の可能性を信じて疑っていない。

 そこに至るまでに、どれだけの苦行があるとも知らずに……。

(俺のせいか?俺の育て方が悪かったのか?)

 何故か世の親と同じ責任を感じる東条。対して目の前の少女は、どんなもんだい、と胸を張っている。

 ……そこはかとなくムカつく。

「お前なぁ、大変なんだぞtuberは?」

「ん」

「ジャンルはどうする?そもそも口座ないだろ」

「……これから考える」

「ああ」

 頭を抱える東条には、彼女のtuber人生が一瞬で潰える未来が見えた。



 ――「ずるるる。見へ、ちゃんほ啜えは」

「口に入れたまま喋んな」

「ん」

 人型になったお祝いとして、彼女の器には山の様にチャーシューが盛られている。

 慣れない箸を使い、懸命に麺を啜る姿に、何かが芽生えそうになった。

「……何で動画投稿者なんだ?ずるるる」

「保存したい。ずるるる」

「ずるるる。何を」

「ずるるる。見たものを」

「なるほど。まぁ分かる」

 人の世界を感じたくて、人になった程の奴だ。

 見て、触れて、感じたものを、いつか色褪せる思い出ではなく、記録として永遠に持っておきたいという気持ちは東条にも分かる。

「それと、さっきのは嘘。ずるるる」

「ずるるるる。何が?」

「ずるるるる。美味しい物はついで」

「じゃあ何が一番なんだ?」


「この世界を旅する」


「…………」


 東条の箸がピタリ、と止まった。

 いつか聞いたことのある台詞。

 いつか誰かが抱いていた夢。

 胸の奥がジクリと痛む。

「……」

 スープに映る、漆黒に隠された自分の貌。

 底のない暗黒の奥には、漠然とした闇が渦巻いている。

 一気に食欲がなくなってしまった。

「まさ?伸びるよ?」

「……ん?あぁ……食うか?」

「やった」

 身体に見合わず大食漢な彼女。


 嬉々として器を掻っ攫うその光景に、東条は仮面の下で力なく微笑んだ。
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