上 下
84 / 218
2章 満たす白 空っぽの黒

4話

しおりを挟む
 


 ――五日後。


 仲良くソファーに寝っ転がり、X tubeを見る二人。

 プロ顔負けの豆ラップを聞いていると、サッ、とリモコンが盗られスイーツ紹介にチャンネルが変わった。

「な、お前勝手に変えんなよ!」

「『ケーキ 食べたい』」

「しゃーねーだろ、ここらの全部腐って食われちまってたんだから。あとチャンネル戻せ」

「シュルル『うるさい』」

「……いい度胸だな。お前今日飯抜きな」

「シュルル『ごめんなさい』」

「許す」

 今や彼女は日本語を完璧に覚え、ペンと画用紙で会話すら可能とする。

 控えめに言っても、モンスターの域を軽く超えていた。





 §





 テレビを付けっぱなしにしたまま寝る東条の横で、彼女はいつも通り本をペラペラと捲る。

 今読んでいるのは、人体構造の書かれた医学書だ。

 最早彼に教えられることは何一つなくなってしまったのが現状。

 勉強は一人でこなし、二人ではもっぱらボードゲームをするのが日課となっている。
 あれは頭を使うから楽しいのだ。


「……シュルル」

 彼との生活は楽しい。

 モンスターや人間を殺して食うだけの日々より、この数日間の方がよっぽど充実している。

 様々な知識を得る機会をくれた事に、感謝もしている。

 気紛れだったが、ここに来て本当に良かった。


 ……ただ、不満なことがたった一つだけある。

 ――彼女は自分の身体を見つめ、もう一度医学書に写る人体に目を落とした。

 この身体では、人間の文化を全身で享受することが出来ない。

 目の前にあるのに、触れることも出来るのに、手が無い、脚が無いという理由で諦めざるを得ない事実。

 彼女にはそれが我慢ならなかった。



 ……だから、

 ――彼女は本をパタンと閉じ、背筋を伸ばす。

 ……無いなら、望み焦がれればいい。

 ……無いなら、創ってしまえばいい。

 ……無いなら、変えてしまえばいい。




 自分自身を。




 彼女の身体が発光し、原子レベルで分解、再構築が始まる。

 三mあった身体はみるみる小さくなり、百㎝程度に収まる。

 光が落ち着き、徐々に露わになるその姿。

 純白の長髪。

 雪の様に柔らかく、儚げな肢体。

 高貴な美しさを孕む、真紫の双眸。

 その上にちょこんと乗っかる、丸眉。


 ――彼女はぐっぱぐっぱと新しい身体を確かめ、成功に頬を緩める。

「……あ、あー。あめんぼあかいなあいうえお。うきもにこえびもおよいでる」

 今まで出来なかった発声練習も難なくクリアし、嬉しさにピョンピョンと飛び跳ねた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...