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2章 満たす白 空っぽの黒

1話

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『現段階で判明している、東京での死傷者数は――』



 ピっ



『主にネットを中心に呼ばれている、魔法という超常の力ですが、モンスターへの新たな対抗策として研究が――』



 ピっ



『今日の天気は晴れ――』



 ピっ



『自衛隊の活躍により、全国各地の被災地は徐々に回復の傾向にあると――』



 ピピっ



『ブンブン、ハローX tube、どーもGIRAKINです。
 世界を襲った大災害の傷は、一か月以上経った今でも、私達の居場所を脅かし続けています。
 今日の動画の概要欄にも、募金サイトのリンクを貼っておきます。皆さん一人一人の力で、この日本を救いましょう!
 こんな時だからこそ、今の自分に出来ることを。
 ……さて、今日の企画は?最近ハマってる慈善活動、トップスリ~~――』



 ――明るいチャンネル音が響く、あるデパートの電化製品売り場。

 八十五インチのテレビが一台だけ稼働し、その前にソファーが置かれている。

 天井を貫き下に伸びる無数の根が、やけに物寂しい空間を紛らわせていた。


「……便所」

 ボソりと呟いたこの空間の、いや、この建物の主は、辺りに散らばるゴミや空き缶を踏み潰し、のそのそと立ち上がる。

 全身に漆黒を纏う、人の形をした何か。
 他人が見れば、モンスターなのかと疑う様相。

 彼は下腹部に感じる便意の赴くまま、便所に歩を進めた。


 ――「……ふぅ」

 用を済ませた彼は、鏡の前に立ち手を洗い、顔を洗う。

「……」

 生え放題な髭。

 濃いクマ。

 長く伸びて目にかかる髪。

 部分的にはだけた漆黒の下、鏡に映る自分は、いつもと変わらず酷い顔をしていた。



 あの後、成長した木々に囲まれて目を覚ました東条は、僅かな希望に縋りデパート内を探し回った。

 諦めきれずに同じ場所を何度何度も回り、目についたモンスターは皆殺しにした。

 一日、二日と同じことを繰り返し、そしてようやく理解した。


 生き残ったのは、自分だけなのだ、と。


 それからはただただ自堕落に生活を送っている。

 別に好きでもない酒を飲み、感情をぼやけさせる毎日。




 ……冒険に夢焦がれていた彼は、もう、ここにはいない。




 再び漆黒を纏った東条は、久しぶりに屋上へと足を向けた。


 ――壊れた扉を潜ると、鬱蒼と茂る緑が目に飛び込んでくる。

 穴だらけになった地面は、張り巡らされた根によって修繕されている。

 鼻を抜ける心地い風を感じながら、中央を目指す。

 一人になった彼に、唯一最後まで寄り添っていた者。

「……よっ」

 周りの木々が遠慮するように開けた場所、十mを超すマイホームが、天高く蒼穹に手を伸ばしていた。


 別に話すでもない。愚痴を言うでもない。
 ただ根元に寝っ転がり、日向ぼっこをする。

 晴れた日の何気ない習慣だが、こうしていると落ち着くのだ。

 ……東条はポケットを漁り、割れた菊のブローチを取り出す。


 太陽に翳し、その光に目を窄めた。
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