Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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2巻 1章~国と魔獣~

6話

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 §



 ヒリついた空気が充満する部屋の中、重役達が全国から集められた情報に目を通していた。

 彼等の胸中に満ちるのは、安心と焦り。
 相反する感情の同居に苛まれながら、これからの行動に頭を悩ませる。


 曰く、北は北海道、南は沖縄まで、球体は満遍なく全国に現れた。

 曰く、他県でもスタンピードや緑化が頻発しているが、大半が小規模。現在はモンスターが現れた際も、民間人の被害を抑え制圧が可能の域。


 曰く、外から見た山手線内は、正に伏魔殿である。


「……日本は無事みたいですね」

「あぁ」

「一応安心、でいいのですかね」

「どれも『ここよりは』という枕詞が付くがな」

 総理は顎に手を添え熟考する。

『ここよりは』被害が軽微。
『ここよりは』緑に呑まれた場所が少ない。
『ここよりは』多少安全。
 そんな場所が全国を埋め尽くしているのだ。

 大規模すぎる損害に感覚が麻痺しかけているが、安心していいことなど何もないのが事実。


 そして何より、改めて理解した自分達が置かれている場所のヤバさ。
 今最も考えなければならないのは、ここからの脱出に他ならない。

「……岩国、もう一度先の調査報告を頼む」

 全員の表情が沈痛さに歪んだ。


 彼等は全国の状況を確認する前に、ある報告を耳に入れていた。
 対策が何も浮かばなかった彼等は、一度そこから眼を逸らし、頭を冷やしたのだ。

「はい。……皇居北方を調査していたΔ隊の全班が壊滅。総勢七十五人中、五十人の死亡が報告されました」

 それあまりに悲惨で、恐ろしい結果であった。


 命からがら帰還した彼等が、口を揃えて言った。


『あれは魔法だ』


 一人の隊員が持ち帰った動画。

 そこには、森を焼き、水を繰り、雷光を閃かせ、大地を隆起させる、今までとは一線を隔す化物共が映っていた。

 初めは誰もが目を疑った。しかし、避難民や自衛隊の中から似た力を発現する者が現れたのを見て、信じざるを得なくなった。

 そして最も彼等を絶望させた情報。


『特別な力を使うモンスターは、総じて現代兵器の効果が薄い』


 現段階で銃が使えないとなると、対抗策がほぼ皆無となる。

 得体の知れない魔法とやらに頼るのもリスクが大きすぎる。

 そもそも民間人を戦場に出すなど言語道断。

「時間が経つにつれ、強力なモンスターの出現報告が増加しています。……猶予はないかと」

「……あぁ」

 車両での移動は不可能。
 かと言って徒歩では全滅は免れない

 空を飛ぶ物は怪鳥の群れに撃墜される。

 銃は効かない。

 時間経過と共に、球体から出てくる個体は強くなる。


 ……詰み。


 その二文字が全員の脳裏を過ったのは、無理のないことである。

 しかし、諦めるわけにはいかない。
 今守れる者だけでも、守らなくては。

 我道は決意を秘めた目で仲間達を見回した。

「只今を以て近辺の救出活動を打ち切る。全隊員を呼び戻せ。
 被害の少ない地域から、出来る限りの大型輸送ヘリと戦闘ヘリを集結させろ。
 脱出は東京駅方面の空路を使用する。こちら側のモンスターが一番弱いとの結論からだ。
 今作戦名をミユキ作戦と命名する。

 作戦決行時刻は……今だ」

「「「――ッはっ!!」」」


 一気に熱を帯び慌ただしくなる室内で、総理は俯き己の不甲斐なさに唇を噛む。

 作戦の決行とは即ち、首都を捨てるということだ。
 場所や施設は問題ではない。自分と時間さえあれば、そんなものいくらでもすげ替えがきく。

 ……問題は、今も何処かで隠れ助けを待っている人を、切り捨てることになるという事だ。

 一国の長として、最も恥ずべき行為。

 しかし長である自分にしか背負えない、許されざる大業。


 生涯身に纏う自責を受け入れ、彼は準備を始めた。
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