Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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2巻 1章~国と魔獣~

4話

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 §


「何だ、これは……」

 夜が明けてまだ早く、我道その他は岩国から渡された動画と写真を手に瞠目する。

 一つは、夥しい数の鳥型モンスターに襲われ、次々と落ちていく偵察用ヘリコプター。

 もう一つは、路上、建物、至る所から生える木々。

 ヘリコプターを襲う行動はまだ分かる。

 しかし、この植物は何だ?一体いつの間に現れた?

「分かりません。この木が現れた瞬間を誰も見ていないと」

「……そんなバカな。皇居内に入られてはないだろうな?」

「はい。見張りからそのような報告は貰っておりません。木の分布も不気味なほど綺麗に皇居を避けています」

「それなら今はいい。防衛ラインの状況は?」

「第一から第三の防衛ライン、構築完了です。現時点、地、空、両敵性生物は第一と外からのスナイパーで対処可能とのことです」

「分かった。引き続き警戒を頼む。それとヘリは今後使わせるな」

「分かりました」

 部屋を出ていく岩国を見届け、背凭れに体重を預ける。

 夜通し状況の把握と整理に勤めていた我道は、疲労がたまって重い目を揉み解した。




 §




 皇居南方。

 警視庁隷下の特殊部隊班により、数人の生存者が保護されていた。

「もう大丈夫です。今から我々が安全な場所へ送り届けます」

「有難うございます、有難うございます――」

 涙ながらに感謝する民間人を連れ、木々を抜けていく。


 しかし皇居までは中々距離がある。精神的にも肉体的にも疲れている一般人からすると、その道のりは例外なく険しいものであった。

 歩くペースは次第に遅くなり、モンスターに見つかる危険も自ずと増していく。

(……車両が使えないのは厄介だな)

 何故か土へと変化した地面を踏みしめ、極端に移動手段が限られてしまう事への不満を内心吐き出した。

 そこへ、

「キチチチチ――」

 皆の足が止まり、四人は銃を構える。

 何処からか聞こえてくる奇妙な音。林に反響して場所が分かり辛い。
 まるで固い物を高速で打ち付けている様な、これ以上来るなと警告している様な。

「……九時の方向だ。構えろ」

 班長の指示に一斉に銃が向いた。途端、

「キシェェェエッ、ゲギゲゲゲ……」

 樹冠の中に隠れていた巨大なムカデが彼等に襲い掛かった、と同時に短機関銃の掃射を喰らいムカデはハチの巣になる。

 一瞬の攻防。民間人は叫ぶ暇すらない

 安堵する彼等だが、しかし本当の危険はここからだ。

 人間を敵視する奴らが、銃声に反応しないわけがない。

「急ぎます。一旦隠れられる場所を探しましょう」

 まず林を抜けようと、彼等は足を速めた。


 急ぐ先に大通りが現れる。周りには木もあまり生えていない。

 あの場所なら、

「あそこの店舗――ッ!?」

「――っ」

 林を抜けた直後、横から猫科のモンスターに突進され、先頭を行く班長が押し倒される。

「ガルㇽㇽㇽッギャンっ!?……」

 班長は咄嗟に銃身を口の間に挟み、ナイフで首を一閃。
 飛び退いたところに数発撃ちこみ、すぐに立ち上がった。

「無事ですか?」

「あぁ、……」

「……囲まれましたね」

 木陰から出てくる六匹の獣。文字通り逃げ場はない。

 唸りながら近づいてくる奴等。

 しかし、モンスターと四、五メートル距離を置く四人の顔に、焦りは見えない。

 なぜなら、

「……この位置なら恐らく」

 班長がちらりと六本木ビルズの屋上を見る。

 瞬間、一気に四匹の獣の頭が血を吹いた。

 その隙をつき、残る二匹を穴だらけにする。

「敵生体沈黙。クリア」

「……流石の腕だな」

 事前に援護射撃の場所を聞いていた四人。

 感謝の意を籠め手を高く上げた四人は、休憩を求めてビルに向かった。




 §



 皇居西方。

 五人の黒迷彩が潜伏しながら、ある一点を注視していた。

『こちらβベータ隊・第一班。新宿御苑内にて例の球体を発見』

『分かった。カメラ設置の後、引き続き周辺の調査を頼む』

『了解』

 班員に命じ、草陰に四つのカメラを仕掛ける。

 何故か沈黙したまま消失しない球体からは、歴戦の彼等をしても異様な圧迫感を感じる。

 任務を遂行し、その場を離れようとしたところで、

「……隊長、敵生体の接近を確認」

 進行方向に三体のゴブリンが現れた。


「ゲ?ゲギャギャ」

「グギャ」

 ゴブリンは鼻をひく付かせるも、漂う臭いが曖昧で充分な情報を得ることが出来ない。
 確かに美味そうな臭いを感じたのだが……気のせいか。

 そう考え警戒を解いた。

 瞬間、

「カヒ」「ヒュっ」「――っ!?……」

 ぬるりと木陰から現れた三人が、流れる様にナイフで首を刈った。

 叫び声も上げられず、三匹はゆっくりと地に寝かせられる。

「クリア」

「クリア」

「クリア」

 何事も無かったかのように血を拭い、彼等は走り去った。

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