上 下
72 / 218
2巻 1章~国と魔獣~

2話

しおりを挟む
 
 ――数十分後、近場にいた国を牽引する者達が、招集に応じ続々と皇居へ到着する。

 まだ来れない者はテレビ通話での参加とし、緊急の会議が開かれた。

 無駄に話し合っている時間は無い。今確保しなければいけないのは、民間人の安全ただ一つ。

 しかし現状は、既に敵に攻め入られ虐殺を許している状況。

 民が訴える嘆きが、痛みが、彼らの胸を抉る。
 絶望的なまでの戦況差に、


 しかし卓を囲む顔ぶれに、一切の怯え無し。


 総理自らが先頭に立ち、的確に指示を出していく。
 誰もそれに意見せず、各セクションに伝達していく。

 この命令系統の早さを実現させているのは、偏に総理への絶対的信頼、常軌を逸したカリスマ性が成せる業だ。

 過去最高と謳われる圧倒的指導者を前に、現在の日本はある種の独裁国家となっている。
 それで国が成り立っているのも、王を補佐する大臣に恵まれたから。

 ここはもう、日本であって、日本ではない。

 そんな国が保有するが、普通であるはずがない。



 §



 ――モンスターは知らなかった。

 今自分達が手を出している場所に、何が潜んでいるのかを。

 モンスターは知らなかった。

 今自分達がいる場所が、どれ程危険な場所かということを。

 モンスターは知らなかった。


 太陽を背負う戦闘集団の、底知れない恐ろしさを。



 §



 ――会議とは名ばかりの、司令本部と化した一室から、重要機関へ指令が送られる。

 国家の主要人物が集まるこの場所を本陣とし、到着しつつある日本最強の戦闘部隊で防衛を敷く。

 それ以外、日本全国の部隊は、駐屯地防衛隊を三分の一残し、避難場所となっている学校や病院へ駆けつけるよう指示が出た。

 そこから近場の避難場所を繋げていくように、自陣を広げる戦術を作戦とする。

 警視庁下の部隊は、主に人命の救助を優先し駆け回ってもらう。


 一先ず落ち着いた本部は、各所からの報告を待つ形となった。



 ――「……ふぅ」

 我道が総勢千を超える部隊を窓から見ていると、慌ただしい部屋にドアをノックする音が響いた。

「失礼いたしますっ。第一空挺団所属、亜門一等陸佐、隷下、Αアルファ隊からΔデルタ隊隊長でありますっ」

「入れ」

 岩国が入室の許可を出す。

「失礼いたしますっ」

 挨拶と共に、一糸乱れぬ動きで計五名の男女が入室し、亜門の後ろに四人が整列した。

「第一空挺団所属、並びに皇居守護部隊総隊長、亜門 誠一郎あもん せいいちろう一等陸佐でありますっ」

 敬礼する彼等の気迫に、部屋中の空気が引き締まる。


 東西南北に配備された人員は、それぞれ四五〇人程度。加えて隊員は全て精鋭中の精鋭。
 過剰なまでの戦力が今、一か所に集結している。

 しかし、それ程までにここは守り切らなければならない場所だということ。

「状況は」

「はっ、既に全方位、皇居内にて第一防衛線を敷き終わり、第二防衛戦の設置に取り掛かっています。
 同時に皇居内にて、怪我人の手当てを行っています。幸い命に係わる重傷者はいないとのことです」

 なるほど流石に仕事が早い、と後ろで見ていた我道が感心する。

「分かった。引き続き第二、第三の防衛線の構築を急いでくれ」

「はっ」

「それと、モンスター共について何か気付いたことはあるか?」

 岩国は外で見た悍ましい化物どもを想起する。

「はっ。私も彼等から報告は受けましたが、今のところ我々は殆ど敵との交戦をしていません。
 敵の事なら彼等に直接聞くのが一番かと」

 亜門は未だに沈黙を守る後ろの四人をちらりと見る。

「我々がこれ程早く防衛線を構築できているのも、彼らのおかげです」

 亜門隷下の大半が任されたいるのは、陣の構築と防衛。

 対して彼等、特戦群が任されているのは、危険未知数の外の偵察である。

「それもそうだな。して、どうだ?」

 黒い迷彩に身体の大半を隠した四人が、ぬるりと動いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

異世界調査員〜世界を破滅させに来ました〜

霜條
ファンタジー
増え過ぎた平行世界の整理を行う調査員が、派遣された先の世界で大事なものを落としてしまう 一体どうしたら仕事ができるのか、落ち込むポンコツ調査員に鷹浜シンジは声をかけた 自分に気付いてくれたこの人になんとか自分を好きになってもらい、この世界を一緒に滅ぼして貰おうと頑張ります 鷹浜シンジは親切心から声をかけたことを後悔した。 ただ困っている女子に声を掛けただけのはずだったが、そいつはどうやら世界を滅ぼそうと考えていた厄介で常識外の存在だった。意味が分からない。 だが行く当てのない女子を放っておくことも出来ずに、なんかとか距離を取ろうとする。

処理中です...