52 / 218
終章 適応と成長
4話
しおりを挟む「師匠、ちょっといいっすか?」
神妙な面持ちの三人に、若葉、葵獅、佐藤が首を向ける。
「ん?なんじゃ」
「明日、あの男と決闘がしたいっす。審判やってくれないっすか」
唐突の申し出に目が点になる。
「あの男というのは?」
「勿論東条のクソ野郎だ!」
因幡の後ろにいた一人が、声を荒げて林を睨んだ。
怒りの出所に佐藤と葵獅は疑問に思うが、常日頃から彼等を扱き倒している若葉だけは、見当がついたのか呆れかえった。
「お主等なぁ、それは八つ当たりってやつじゃぞ?」
「んなこと分かってらァ、これはケジメだ。……夢破れた俺達のな」
涙ぐむ三人は夜空を見上げ、過去を思い出す。
屋上に避難して、運よく生き残り、槍の才能を見出され、三人で強くなろうと誓ったあの時を。……
違う違う、そんなことどうでもいい。
それ以上に、介護してくれた天使の如き少女を。
この世の物とは思えない程の可憐さを。
儚げでいて、どこか悪魔的な美貌を。
そう、彼等は恋していたのだ。
黄戸菊 紗命に。
始めは誰がアタックするかで殺し合った三人だが、決着のつかない戦いに虚しさを感じた。
その結果、三人の内誰が彼女と結ばれようと、残りの者は血の涙を流して祝福するという協定が結ばれた。
そうしてアタフタと時が流れていく中で、気付くと、いつの間にかポッと出の変態に彼女は取られていた。
彼等は茫然とした。
世界の残酷さを知った。
怒り、震え、そして哭いた。
暗殺しようにも、彼女に嫌われないかと一歩を踏み出せなかった。
彼女が攫われた時、命を顧みず助け出したのは奴だった。
何より、彼女の『女』の顔を見てしまえば、嫌でも気付かされる。
彼等は決めたのだ。
己の夢物語に終止符を打つと。
滂沱の涙を流す彼等に、テーブルの三人は引き気味に応対する。
「……いやまぁ、主等の気持ちも分からなくはないが「分かってくれるかジジイっ!」ええぃ鬱陶しいっ」
縋り付く一人を、若葉は汚汁が付かないように振り払った。
「……東条は強いぞ?」
「分かってるぜ葵獅の旦那。でもこれは、あくまで俺達の枷を壊す戦いなんだ。勝ち負けじゃねぇんだ」
「……それに巻き込まれる東条さんは堪ったものじゃないでしょうけどね」
苦笑する佐藤に、因幡は不思議そうな顔をする。
「何言ってんすか佐藤さん、あの変態は当事者っすよ?」
彼等の中では、東条が悪であり仇敵であり恋敵である事実は二度と変わらない。
故に巻き込まれて当然なのだ。
「だがなぁ、東条が了承するとは思えんぞ」
彼の性格上、見るからに面倒臭いイベントに首を突っ込むとは到底思えない。
しかし、
「もし断られた時の事なら考えてあるんで、とりあえず手筈よろしくっす」
それだけ言うと、彼等は無駄に覚悟の決まった背中を向けて去って行った。
――波乱万丈、様々な想いが錯綜するパーティーは、それぞれの決意を宿し終わりを告げたのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる