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終章 適応と成長

1話

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 §



 ――そして二日後。



「……ん、おはよぅ、桐将。なんか食べる?」

 横で休んでいた紗命が、東条が起きた振動を感じ取る。

 彼女の目の下には、心配と睡眠不足からか、濃いクマが浮かんでいた。

「……おはよう。心配かけたな」

「ちょ、まだ動いたらあかんてっ」

 自力で起き上がる東条を、慌てて制止しようとする。

「なんかもう大丈夫っぽい」

「寝言は寝て言い。ほら、無理しいひんで」

「いやマジで」

 ギプスを振り回す東条に目を見開き、おでこを合わせる。

「熱は……あらへんみたいやね。骨折と、火傷の痛みは?」

「お、おう。ないぞ?」

「……包帯外すな?」

 言うが早いか身体中の包帯を取っていく紗命の顔が、みるみると驚愕に染まる。

「こら、凄いわぁ……」

 見るも無残だった焼け爛れた傷は、凄惨な痕は残したものの完全に治癒していた。

「今回ヤバいの二体殺したからな。それだけ治りも早かったんだろ」

「……とりあえず、良かったわぁ」

 身体を伸ばす東条の前で、張り続けていた緊張から解放された紗命が、ぐで~、と溶ける。
 その姿に微笑み、毛布をそっと掛けた。

「ありがとうな、紗命」

「妻として当然のことやでぇ」

「残念だが人違いだ。夢は眠ってから見てくれ」

「ふふっ、……」

 限界だったのか、彼女はそのまま可愛らしい寝息を立て始めた。



 周りで寝ている怪我人を起こさないように、そっと外へ出る。

 冷えた空気を肺に流し込み、寒空の太陽に目を窄めた。

「む?東条殿?もう動いて大丈夫なのか?」

 通りがかった若葉が驚きに目を丸くする。

「はい。心配かけました」

「いや、無事で何よりじゃが……。そうだ、お主の家、入口前に移動しておるぞ」

「分かりました。ひとっ風呂浴びてきますわ」

 揚々と去って行く彼に、若葉も呆気に取られてしまう。

「……会う度に傷が増えていくのぉ」

 その後ろ姿に、戦慄に似た何かを感じた。




 ――「お、英雄のご帰還だぞ」

「うぉっ、なんすか」

 シャワールームから出てきた東条は、盛大なお出迎えにビックリする。

 彼の前には、休んでいる者を除いた全員が集結していた。

「起きたなら何か言ってけ」

「まぁまぁ、東条さんの気持ちも分かりますよ」

 先頭の葵獅と佐藤が困った笑みを浮かべる。

「葵さんも佐藤さんも、元気そうで何より」

「「……こっちの台詞だ」です」

 今度こそ呆れ果てる彼等は、シャツから覗く左腕の戦闘痕に目を向けた。

 生々しく、生涯消えないだろうそれ。

「……お前の身体はどうなってるんだ」

「早すぎるとかいう次元じゃないですよね、もう」

「いや、正直俺も今回はヤバいと思ったよ」

 質感の変わってしまった肌を撫でる。
 完治といっても全てが元に戻るわけではなく、感覚もどこか鈍い。

 しかし命があるだけ万々歳。彼は何も気にしていなかった。

「あぁ、そんなお前のおかげで今の俺達がある。ありがとう」

 一斉に頭を下げられ、驚きと羞恥でむず痒い気持ちになるが、

 まぁ、悪い気はしない。

「……くるしゅうない。面を上げい」

 彼等は苦笑しながらも付き合ってくれる。

「皆が動けるようになったら祝勝会だ。今はリハビリでもしとけ」

「……驚いた。てっきりそーゆーのは嫌いなのかと思ってた」

 特に佐藤さんは、と加えると笑って否定される。

「今まではそんな余裕が無かっただけですよ。
 ただ、張り詰めているだけじゃいつか綻びができる。適度なはっちゃけも必要でしょう」

「おぉ、分かってらっしゃる」

 今回の戦いで各々見えた物も多い。

 武力面然り、精神面然り。


 壁を乗り越えるにつれ、彼等はこの死地に適応しているのだ。

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