Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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3章 合流

18話

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 ――頬を撫でる冷たい風。

 嗅ぎ慣れていない濃い緑の香り。

 目を開けるも、ぼやけていて何も見えない。緑色の何かしか見えない。

(眼鏡、眼鏡……)

 佐藤は身体を動かそうとし、

「あぅ」

 全身をを蝕む筋肉痛に顔を顰めた。

「あ、佐藤さんっ起きたんすね!今眼鏡かけます!」

 溌溂とした声が自分の名前を呼ぶ。眼鏡が佐藤に装着され、本来の彼が戻ってきた。

 身体がゆっくりと起こされ、水を手渡される。

「有難うございます。……君は?」

 一口啜すすり、自分を介護してくれている少年を見る。

「因幡 恭祐っす!十七っす!佐藤さんっ、めっちゃかっこよかったっす!あと、今自分がここにいれるのは佐藤さん方のおかげっす!本当に!有難うございましたっ!」

「い、いえ、こちらこそ有難うございます」

 ぐいぐい来る少年にたじろぎながら、佐藤は改めて辺りを見回す。

 屋上に広がっている景色は、彼の知っているものと違う。

 佐藤と葵獅が黒鳥を惨殺しまくった場所など、小さな林の様になってる。

 自分の真上にも茂るそれを見て、当然の疑問を投げかけた。

「因幡くん、これは何でしょうか……、」

「自分達にも分からないんす。寝て起きたら生えてました。何もしてこないんで危険ではないと思うっす。……近くにいると何かほんわりして落ち着くんすよね」

 枕元に生える一本を見る因幡に、言われてみればと佐藤も同意する。

 嗅いだことのないほどに濃い自然の香りは、安らぎと同時に戦意の低下を誘発されている気がする。

 もしかしたらこれも自衛手段の一つなのかもしれない。

 少し不信が募ったが、やめた。今はあまり頭を使いたくない。

 佐藤は彼等の安全だという言葉を信じることにした。

 再び目を閉じようとして、一番大事なことを思い出す。

「そうだっ、葵獅さんと凛さん、紗命さんはっ!」

「全員無事っす。葵獅さんと紗命さんは身体が動かないらしくて、それぞれ凜さんと花ちゃん家族が介抱してるっす」

「花ちゃん?」

「優しい女の子っす」

「あぁ、……そうですか、何より三人とも無事で良かったです」

 彼は敷かれたコートに再び横になろうとして、腹筋に力が入らず危うく頭を打ちそうになる。

 慌てる因幡に笑って誤魔化し、もう少し休むと伝えた。

 皆と会うのは、動けるようになってからでいいだろう。



 §



 ――木漏れ日差す森の抱擁が、東条の意識を優しく揺する。

 温度を持った静かな光が、若草色に染まり照らしてくる。

 腹に圧迫感を感じ、首だけ動かして周りを見た。

(……?)

 全方位を木々に囲まれている。

 横にはマイホームの証であるハンモックも見えた。

 どうやら自分は木の枝にぶら下がっているらしい。

「……っと」

 彼はとりあえず起き上がり、枝に腰掛け状況を把握する。

 狼に勝ったところまでは覚えている。

 そこから記憶がない。

 大方これらの木々は、大量の血と死体を求めて集まって来たのだろう。

 それで、自分がぶら下がっていた理由だが……、

「共生ってやつか?……まぁ、ありがとさん」

 ポンポンと幹を叩く。

 確証はないが、頭の良いこいつの事だ。生かしておけば餌にありつけるとでも考えていそうだ。

 謎も解け、身体を流す為トイレに向かおうとしたところで、盛大に身震いする。

 今気づいたが、やけに寒い気がする。

 それも十二月後半の様に。

 嫌な予感がして木を上り、天辺ギリギリまで行き葉を掻き分ける。

「……どうりで」

 寒いわけだ。

 仰ぎ見る先には、久方ぶりの蒼穹が広がっていた。


「なんかお前デカくなったよな」

 地面に下りた彼は、一回り大きくなったマイホームを見上げる。既に四m強はありそうだ。

 新品のTシャツ二枚を持ち、密集する木々を縫いながら身体の調子を確かめるが、驚くほど良い。むしろ死にかける前より良い。

「――ッいっつ」

 しかし左腕を回したところで鋭い痛みが走った。

 そこで自分が昨日負った傷を思い出す。

 見ると左腕には、二の腕を犯す無数の赤い歯型が生々しく残っていた。

 血で張り付いた服をバリバリと剥がし、パンツと靴下と靴という格好で小さな林を抜ける。


「………………は?」


 そこでは空の下、集まった人達が普通の営みを送っていた。
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